金井啓子の現代進行形

待ちわびる人に届かぬ10万円

2020年7月2日

事務能力と予見性に問題か

 6月28日の朝日新聞朝刊が、一面トップで「10万円給付 大都市で遅れ」というタイトルの記事を載せた。問題になっているのは、新型コロナウイルス対策で国民に一律10万円を配ると政府が決めた特別定額給付金。朝日の調査では、東京23区と全国20の政令市のうち大都市ほど遅れがひどく、なかでも大阪市が3%台の支給率で最も遅れていると伝えている。

 大阪市の支給が遅い理由は、約270万人も人口を抱える上に、電子申請による申請者の入力ミスが多発、また担当職員の少なさといったさまざまな要因が複合的に絡んだ結果のようだ。だが、大阪市より約100万人も人口が多い横浜市でも23・4%、約150万都市の神戸市では78・2%の支給率であり、人口の多さと支給の遅さとに因果関係はなさそうだ。

 総務省のホームページには特別定額給付金の目的が記され、その最後に「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」と書かれている。また、事業費や経費は国が負担するが、事業主体は市区町村であると明記されている。

 市区町村は各自治体の責任において「迅速かつ的確に家計への支援」を行う義務がある。他の政令市の支給が大阪市より速いのは、事前の準備や創意工夫を重ねて義務を果たした結果だろう。支給に伴う事務量やトラブル等はどの都市も同じはずで、そう考えると大阪市には創意工夫も事務トラブルを回避する予見性もなかったと思われても仕方がない。

 大阪市の松井一郎市長が最近ツイッターで投稿していたように、「政治は結果責任」ではなかったか。さまざまな理由があっても、大阪市の支給が遅れたのは大阪市の責任だ。10万円を心待ちにしている大阪市民をがっかりさせた責任を、松井市長は重く受け止めるべきだろう。

 さて、もし大阪市に新たな行政サービスに対する迅速性やトラブル回避の予見能力に欠けているとすれば、別の不安も出てくる。

 いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票が今年11月に予定されており、もし賛成多数になれば大規模なシステム改修や膨大な事務作業が待っているのだ。これは、特別定額給付金の事務の比ではない。それだけに、大阪市にその作業をスムーズにこなすだけの能力があるのかという不安がわいてくるのだ。

 また、現在の大阪市は市民向けの印刷物などで「都構想」のメリットを伝え、政令市解体の必要性を訴えている。ただ、その「メリット」も将来の予測であり、もし大阪が予見能力に欠けているのならば、その主張もはなはだ疑わしいことになってくる。

 一事が万事で、いくら口で立派なことを言う人間でも普段のふるまいが怪しいなら、すべてが疑わしいものとなる。人でも自治体でもそれは同じ。まずは、10万円を待ちわびている市民に届けること。やるべきことを迅速にやれる姿を見せてほしい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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