金井啓子の現代進行形

特別区設置協定書が正式決定

2020年8月6日

総務省の「問題なし」は本当か

 目の前に理解できない現象が現れると、私たちの頭は混乱する。同時に、「あれは何であるのか」と事実を知りたい欲求にも駆られる。

 例えば、夏の夜。暗い道を歩いていると、青白く光る物がふわふわと浮いていたとする。その瞬間、私たちは恐ろしさを感じると同時に、「これは何なのか」という疑問も抱く。その疑問に対して答えを与え、意味や理由を示すのが専門家の役割である。

 「青白く光る物」であれば「それは霊魂です」と答える霊能力者もいれば、「単なる放電現象」と断定する物理学者もいるだろう。いずれを信じるかは、その人次第。ただし、専門家もさまざまだ。中には「悪い霊に取りつかれている。このつぼを買えば除霊される」などと商売のネタにする不届き者もいるので、注意が必要だ。

 さて、この世の中には複雑で難解なものが多いが、政治の世界で起きていることもある意味で“怪奇現象”かもしれない。専門用語や議会での独特の慣習がはびこり、また理解するには法律の知識なども必要で、一般の人にはとっつきにくい世界である。だからこそ、素人でも理解しやすいように複雑な政治現象を語るのが政治家の務めだと言える。ただし、政治は複雑怪奇だからこそ、政治家の意図的なミスリードで国民は簡単にだまされることもある。

 先日、いわゆる大阪都構想の“設計図”である特別区設置協定書が総務省のリーガルチェックを受け、大阪府・市に戻された。それを受けて法定協議会が7月31日に開催され、同協定書は正式なものとなった。今後は大阪府議会と大阪市会の承認を受け、コロナウイルス問題の影響で変更がなければ11月1日には住民投票が行われる予定だ。

 ところで大阪市の松井一郎市長は法定協議会後の会見で、総務省から「『問題なし』との回答をいただいた」とコメント。都構想に反対から賛成へ転じた公明党大阪本部は公式ツイッターで、府議団幹事長の肥後洋一朗府議の「総務省も(中略)大阪都構想に対して大きく評価をしていただいたものだと思っています」とのコメントを紹介した。

 だが、総務省は「問題なし」とも「大きく評価」とも述べていない。むしろ「特別区設置に関する判断をするものではない」と突き放している。つまり松井市長と肥後府議のコメントは正確さに欠けており、これでは「政府が都構想の正しさにお墨付きを与えた」と大阪市民は勘違いしかねない。

 政治家は、政治の専門家だからこそ正確な情報を国民に伝える義務がある。国民をミスリードするようでは、民主主義は成り立たないのだ。不思議で怪しく、かつインチキ臭い話は「夏の夜の怪談」だけにしてほしい。

(近畿大学総合社会学部教授)


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