金井啓子の現代進行形

市役所も廃止だが大阪市も

2020年9月10日

住民投票では真実の周知を

 世の中には「事実だけど真実ではない」というものが数多く存在する。人はときに、その事実だけを信じて真実を探ろうとしない。なお、ここでいう事実とは目に見える表面的な事柄や現象のことで、真実とは本当のこと、本質的なことを指す。

 例えば、水の入った透明なコップの中にストローや箸を入れて外から眺めるとどうなるか。ストローや箸は曲がって見える。だが、実際にストローや箸が曲がったのではない。曲がって見えたのは事実だが、光の屈折で曲がったように見えるだけだ。これが真実である。

 その昔、地球は宇宙の中心で、回っているのは太陽や星だと信じられていた。なるほど、事実として太陽や星は動いて見えるし、また宗教上の世界観が支配的な時代もあって、天動説こそが真実だと信じられていた。しかし、天体観測を続ける一部の科学者が、動いているのは地球であり太陽の周りを公転していることを発見した。人の目に太陽や星が動いているのは事実でも、地動説こそが真実だったわけである。

 いわゆる大阪都構想の賛否を問う住民投票が今年11月1日に実施されることが決まった。衆院選の動向次第で日程がずれる可能性もあるが、住民投票は確実に行われる。

 さて、その住民投票で使用する投票用紙に「大阪市を廃止」の文言を入れることを大阪市選挙管理委員会が決定した。前回2015年5月17日の住民投票では投票用紙に「大阪市における特別区の設置についての投票」と記されているだけで、大阪市廃止の文言はなかった。これでは大阪市民に正確な情報が伝わらないとして、一部の市民らが大阪市会に陳情。これが維新以外の会派により採択されたことを受け、今回、投票用紙には「大阪市を廃止」を入れることを市選管が決めた。

 都構想の根拠法である大都市法の第一条には、その「目的」として政令市の廃止が明記されている。だったら投票用紙にも目的を正確に書かなければ、市民に正確な情報を届けたことにはならない。むしろ、なぜ前回は記さなかったのかと不思議に思う。

 一方、大阪市の松井一郎市長は市選管の決定に不服があるのか、「大阪市の廃止」ではなく「大阪市役所を廃止」とするよう求めたという。

 確かに都構想が実現すると大阪市役所が廃止されるのは事実である。ただし真実ではない。市役所の廃止は大阪市の廃止が大前提であり、松井市長の主張は市民に「大阪市は残る」といった勘違いを引き起こしかねない。

 松井市長もいまさら天動説めいたものを主張するのではなく、住民投票で市民が正確に判断できる地動説のような真実を述べてもらいたいものである。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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