阪神淡路大震災と聞くと思い出すのは、街に広がる火の手と壊れた高速道路から落ちかかったバス。これらに代表される「固定化したイメージ」を覆そうとする試みがなされたのは1年前のことだった。朝日放送が取材映像のうち約38時間分をネットで公開したのだ。
私の授業でもアーカイブを見せると、「固定化したイメージ」とは違うリアルで多様な震災の姿を見た学生が驚いていた。
アーカイブ公開を提案した同社の木戸崇之さんによると、公開から1年たつうちに、社内でも「アーカイブに意識が向き始めた」という。26年前に視聴者から提供された映像をきっかけに、若手のディレクターが取材を進めており、そういった映像もアーカイブに加わる予定だという。「来年以降も若手の取材材料になると期待している」と語る木戸さんは、震災の教訓を未来に伝えたいという願いがかないつつある手応えを感じているようだった。
そして、震災から26年を迎えようとしている今、今度は『スマホで見る阪神淡路大震災 災害映像がつむぐ未来への教訓』と題する本が西日本出版社から出された。著者は朝日放送と木戸さんである。
この本では、アーカイブの動画に関して文字と写真で説明された横にQRコードがある。第1章の最初にある「発生の瞬間」と書かれたページのQRコードをスマホで読み取ると、当日朝の情報番組の画面が映し出される。スタジオが大きく揺れて画面が消えた後も、出演者が音声で視聴者に落ち着いた行動を呼び掛けている。この本では、他にも救助や避難所の様子など、アーカイブ動画の多様さがうかがわれるページが続く。
紙媒体の衰退が言われるネット時代にこの本を出版した理由について尋ねたところ、木戸さんは「数百年前の古文書が残っているように、紙媒体は強い。インターネット上のアーカイブは、何かの拍子になくなってしまうかも知れないが、紙にすると半永久的に残せるということが狙い」と答えてくれた。
出版社にはDVDで動画を見られるようにしてはどうかと提案されたという。だが、DVDプレーヤーはそのうちなくなるだろうと考えた木戸さんは「QRコードもいつまで見られるか分からないが、DVDよりは長いのではないかと考えて」QRコードで動画を見られる形にしたのだという。
アーカイブ公開に続き、著書出版という大変な作業を終えたばかりの木戸さんは次に何をしたいと考えているのだろうか。「言葉の変化で古文書が読めなくなるように、たとえ常に公開していても、アーカイブは時間の経過で意味が分からなくなっていく。学びに活用するためには『解説』が必要。アーカイブから常に学びが得られるよう、僕が持つ知識やノウハウを添えて、すぐに使っていただけるような使いやすいコンテンツを作るために、知恵を絞りたい」と語ってくれた。
(近畿大学総合社会学部教授)
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