金井啓子の現代進行形

思い出す4年前の大統領就任式

2021年1月21日

確実に深まった米国内の分断

 4年前の1月20日、私はワシントンDCにいた。トランプ大統領の就任式典のために集まってきた人たちと話をするためだった。

 クリントン氏との選挙戦が激しかったこともあり、街にはトランプ氏の支持者と反対派の双方が繰り出し、小競り合いになることが予想されていた。だから、地下鉄の駅から地上に出た私は、人々が集まるナショナルモールという広大な公園に向かって歩く間、緊張と恐怖を感じていた。支持者と反対派の衝突に巻き込まれたら怖いという気持ちである。

 だが、双方が言い争う場面には遭遇したが、私の見た限りそれはごくわずかで、暴力に発展することもなかった。各地から警備に駆り出されてきたらしい州兵たちも、見た目はごついものの、話しかけてみると人なつこく返事をしてくれて、物々しさはほとんど感じられなかった。

 4年前のあの日を思い出して最も印象に残るのは、「私はイスラム教徒です。何でも尋ねてください」と書いたプラカードを掲げた若い男性2人との出会いである。彼らは「大統領選挙が進むうちにイスラム教徒は憎しみを持っている人たちというイメージが強くなった。イスラム教徒は平和と愛を大切にしている。それを知ってほしくて来た」と私に話してくれた。

 そこに、トランプ氏支持を示すバッジや帽子を身に着けた40〜50代の白人男女2人が近づいてきた。思わず身構えたが、彼らは青年たちに「きょうはここに来てくれてありがとう」と声をかけ握手をしたのだ。その男女は「トランプ支持者はイスラム教徒に批判的だとマスコミは言うけれど、みんながそうというわけではないということを知ってほしかった」と話した。「分断」が強まりつつある中で見かけた「対話」だったからこそ、私の心に深く残っている。

 さて、このコラムが出る頃には、第46代大統領としてのバイデン氏の就任式典が終わっているだろう。

 連邦議会議事堂で新しい大統領が生まれる瞬間が大きなスクリーンに映し出されるのを人々が見守るはずだったナショナルモールは、今回は閉鎖されているという。今月初めにトランプ氏の支持者とみられる人々が連邦議会議事堂に押し入って死者まで出る騒ぎとなり、ワシントンDCの警戒ぶりは最大級のものとなっているそうだ。

 4年前にもあった「分断」が間違いなく深まっている米国。私自身も個人的にそれを実感した。私には米国に住む友人が多いが、自分の国の現職大統領のことを口を極めて非難する人にこれほど多く出会う4年間は今までに経験したことがなかった。だが、その一方で、そこまで非難されるトランプ氏を暴力に訴えてまで強く支持する人々がいるのも現実だ。

 次の大統領が就任するのは4年後である。その日には、コロナ禍もおさまって分断も緩和して、私はまたワシントンDCの街を歩けるのだろうか。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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