金井啓子の現代進行形

高齢者へのワクチン接種を急げ

2021年2月25日

コロナの面会禁止緩和に向けて

 外国での新型コロナウイルスワクチン接種開始のニュースを耳にするたびに、「日本はなぜこんなに遅いのか」「世界に名だたる製薬会社は日本にもいくつもあるのに」などと不満に思っていた。だが、日本でもようやく接種が始まった。

 私は接種を受けようと考えている。ただし、医療従事者や高齢者、基礎疾患のある人など優先すべき人々が多いことや、重症化リスクが比較的小さい私は順番としては最後になるのであろうことは、理解も納得もしている。

 いま最も気になるのは65歳以上の高齢者への接種実施が遅れる方向だというニュースだ。4月から試行的に始めるが、接種が本格化するのは増産したワクチンが届く5月以降になる見通しだと報じられている。

 遅れを懸念しているのは、コロナで亡くなる高齢者が増えるかもしれないからだけではない。高齢者の多くが家族と過ごす時間を奪われることも、見過ごせない問題だからである。

 知人Aは、東京から頻繁に里帰りして地方都市の病院を訪れても、コロナ禍による面会禁止が解けず、母親に会うことができずにいた。大阪に住む知人Bは、地方に住む祖父母に自分が感染させることを恐れているため何カ月も会えていない。Bは、自分が訪問できない町を友人たちが観光で訪れてその写真をSNSに載せていることにも深い憤りを抱えている。

 東京の知人Cは毎日のように仕事で外出しつつ、自宅でヘルパーたちの助けを借りながら母親を介護しているが、そろそろ限界に近づいており、施設への入居を考えている。だが、コロナ禍による面会禁止がいつ解けるかわからない中で母親を入居させればもう二度と会えないかもしれないと思い、施設への申し込みをためらっている。

 そういった高齢者たちには、もちろん家族と会うことだけが必要なのではない。近所の人や、介護や医療に携わる人々も、手を尽くしてくれているだろう。だが、子どもや孫と、ビデオ通話などを通じてではなく、手や身体に触れて温かみを感じあいながら過ごせる時間の有無が、認知症をはじめとする病気の進行を左右することは十分ありうる。大げさではなく寿命の伸び縮みに影響しかねないのだ。

 ワクチン接種が優先される医療従事者の数が予定より100万人近く増えたなどというニュースを聞くと、高齢者への接種をはじめとする今後の政府の対応が後手後手に回りそうで不安でならない。

 海外では、少しでも早くワクチン接種を受けようと、有力者のコネを使ったり、若者が高齢者に見えるように変装するといった「事件」まで起きているという。命がかかるとなると誰もが必死になるということなのだろう。日本でも何が起こるかはわからない。

 大切なのは人の命である。こんな当たり前のことをここに書かずに済む時がすぐに来ることを祈りつつ、今日のコラムを終えたい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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