金井啓子の現代進行形

維新の会がファクトチェック

2021年3月4日

求められるのは世界基準の充足

 これは本当なのかと判断に迷う情報が多くなっている今、さまざまな言説に対してファクトチェックが必要だと考える人が増えるのはいいことである。怪しげな情報をうのみにする人がそれだけ減るからだ。また、ファクトチェックを専門家だけに任せず、自分でファクトチェックをしようという一般人が増えてきているのも頼もしい傾向である。

 ただ、多くの人がファクトチェックという言葉を口にするようになった中で、新しい懸念も生まれた。それは、ファクトチェックの概念や方法に対しての解釈が、あまりに恣意(しい)的かつ多様になりすぎてしまったことだ。

 国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)では、ファクトチェック綱領のもとに、「非党派性と公正性」「情報源の透明性」「財源・組織の透明性」「方法論の透明性」「明確で誠実な訂正」という五つの原則を定めている。これがファクトチェックの世界基準である。

 さて、大阪維新の会は先月、ツイッター上で「ファクトチェッカー」を開設したと発表した。

 政党や政治団体には、情報発信をしたり批判に反論する自由が当然ある。実際に維新以外の政党や政党機関誌も、これまでに「ファクトチェック」と銘打った記事を出したことがある。ただし、前述の世界基準に照らせば、政党や政治団体によるファクトチェックは「非党派性・公正性」の原則から外れており、明白な党派性がある維新は適格性に欠けている。ファクトチェックでは第三者性が大切であり、当事者による検証はファクトチェックとは言えない。維新に関する言説のファクトチェックが必要ならば、第三者に依頼すればよいだろう。

 適格性の有無はさておき、維新のファクトチェッカーが第1弾として公表した内容を見てみた。すると、ファクトチェックが行うべき「真偽の判定」が行われていないことが気になった。つまり、これはそもそもファクトチェックには適さない言説だったのではないかということになる。前述した通り反論の自由はあるわけだから、ファクトチェックの体を取らずに反論しておいた方が理解されやすかったと感じた。

 今回のファクトチェッカーの内容でもうひとつ気になったのは、大阪市会に多くのメンバーを送り込んでいる大阪維新の会が、行政である大阪市とまるで一体化し、大阪市の言い分を代弁しているように見えた点である。これでは二元代表制の原則が守られないことになってしまう。第2弾に取り組む際には、そういった基本的な点をもっと意識してもらいたいと願っている。

 世界中で活発に行われているファクトチェックが、遅ればせながら日本でも広がることは喜ばしい。一部の人が信じている「真実」を他の人たちはデマだと糾弾する動きの中で進む分断が、少しでも緩和されるために、ファクトチェックが果たせる役割は小さくないからだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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