金井啓子の現代進行形

優先相次ぐ首長のワクチン接種

2021年5月20日

問題の本質は説明不足にあり 

 コロナ禍で1年余り絶えず感じてきた私の不安の中に、怒りが混じる度合いが最近増えてきた気がする。怒りという負の感情を心にためていると疲れる。健康にも影響を及ぼしかねない。だから、なぜ怒りが強まったのか、自分なりに観察し分析してみた。

 感染が収まらず長い間不自由な生活を強いられており、怒りの理由を挙げ始めたらきりがない。だが、自分にとってどんなに嫌なことをさせられる場合でも「整合性が取れたちゃんとした説明」さえあれば、そこそこ我慢できるという考えに至った。逆に言うと、明瞭な説明がないまま何かをさせられたり、やりたいことを我慢させられている状況が、私の怒りの根底に潜むという結論にたどりついたのだ。

 たとえば、各地で自治体の首長が住民より先にワクチンの接種を受けていたことが発覚した件。公平性の観点から「フェアではない」「ずるい」「首長である特権を乱用している」といった批判の声がある一方で、感染対策の陣頭指揮を執る自治体トップが優先的に接種を受けることは理にかなっているとする意見もある。私の個人的な意見は後者である。自治体の意思決定をつかさどる人間には、ワクチン接種によって感染のリスクを下げた上で住民の健康を守る業務に全力投球してほしいからである。

 だが、次々と明らかになる首長の接種のニュースにはモヤモヤするし腹も立つ。なぜかと言えば、「整合性が取れたちゃんとした説明」がないからである。ワクチン接種拒否の方針を掲げた人でない限り、今は一刻でも早くワクチンは打ちたいと焦っているはずだ。その状況の中で、「ウチの市長が市民より先に接種を受けるのは、コロナ感染対策の業務に専念して市民を守るため」と納得できるのと、「ドサクサにまぎれて接種を受けやがって。市長だから陰から手をまわして優先してもらえるよう圧力でもかけたのか」といらだつのとでは、市民感情が全く違うことがわかるだろう。

 余ったワクチンの活用に関しても、長期保存はできないから既定の順番にのっとらず接種を受けやすい人に臨機応変に受けさせることもあるという説明さえ事前に周知されていれば、問題は起こらないだろう。

 ちなみに、多くの国民が「やりたくない」と言っても政府が「やりたい」と言って聞かない五輪。これだって、「なぜ五輪を今やるべきなのか」という合理的な説明さえ政府から示されれば、どんなに嫌なことであっても我慢できるはずだ。いや、それはさすがに無理か。仮に、五輪の中止や再延期で経済的損失を被る人が苦境に追い込まれるからという説明を聞かされたとしても、コロナ禍で感染や経済的苦境により命を落とした人が既に大勢いるのに、その状況をさらに悪化させるリスクがある五輪には、どんな「整合性がとれたちゃんとした説明」もないと考えるためだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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