金井啓子の現代進行形

ついに来た米渡航中止勧告

2021年5月27日

在米日本人の混乱は必至

 昨年3月、私は米国にいた。在外研究期間の最終盤であり、新型コロナウイルス感染症の広がりが各国で目立ち始めた頃だ。後に感染が爆発的に広がる米国でもまださほどではない時期で、むしろ客船における感染が大きく報じられていた日本の方が危ないと見られていた頃だった。ただし、私がお世話になっていた大学でもオンライン授業に切り替えられた直後だった。

 日本への帰国日のカウントダウンが始まる中、私の懸念は、米国を無事に出国できるのか、予約してある飛行機は飛ぶのか、そして日本に無事に入国できるのか、というところに集中していた。だから、サンフランシスコを飛行機が飛び立った時、関西空港に着陸した時、そして検疫のゲートを何事もなく通り抜けて迎えの友人の顔を見た時の安堵(あんど)は、今でも鮮明に覚えている。

 その米国が、コロナ感染が収まらない日本について新たな指針を打ち出した。国務省が国民向けに出している各国への渡航の安全度を示した4段階のうち、日本に関して1段階引き上げ、最も厳しい「渡航中止の勧告」としたのだ。

 そのニュースを聞いた時、「ついにここまで来てしまったか」と思わず、ため息が出た。

 私の友人の中には、仕事や結婚、勉学などさまざまな理由で米国に住んでいる日本人がいる。忙しい彼らなので、日本への帰国は普段からそれほど頻繁ではない。だが、自分の意思や都合で「帰国しない」のと、政府の勧告で「帰国できない」ことの間には、結果は同じでも大きな隔たりがある。日本にいる家族に何かが起こるなど、なんらかの理由でどうしても帰りたいと思っても帰れない状況が生まれてしまった今、どれだけのストレスを抱えているのだろうと想像するだけで、昨年の私の帰国前の不安どころではなく、胸が痛む。

 いや、実は、渡航中止勧告に法的拘束力はない。罰則もないという。だから、米国から日本への渡航自体は物理的には引き続き可能なのである。

 だが、いったんは日本に帰国したとしても、用事が済めば現在の本拠地である米国へ彼らは戻らねばならない。米国には仕事場があり家族もいる。米国到着後の空港でパスポートを見せれば、最も厳しい「渡航中止の勧告」が出されている日本から戻ってきたばかりだということは明らかになる。再入国ができるのかどうか定かではなく、職場や家族のもとに容易には戻れない事態が発生しないとも言い切れない。そんなリスクをとるわけにはいかず、当面は日本への帰国を諦めざるを得ないだろう。

 祖国への帰国すらままならない国民を生み出してしまった日本政府。手をこまねいていては困る。今そこにある危機に対してまともな対応を今ほど強く願う時はない。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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