金井啓子の現代進行形

夜釣りの空で私は見た!?

2021年6月3日

コロナ禍に一服の清涼剤

 いい年をして恥ずかしい話だが、私には怖くてたまらないものがある。そのひとつは「巨像恐怖症」と呼ぶらしいが、大きいもののそばに寄ると怖くて仕方ない。たとえば遠くから見る「太陽の塔」は個性的で美しく見ていて楽しいのだが、近づくとなんとなく体調が悪くなってくる。

 もうひとつ怖かったのが宇宙人と未確認飛行物体(UFO)である。これが苦手なのは小学生の頃に見たテレビ番組がきっかけだ。「すでにUFOは何機も地球に飛来している」「この写真に映る人々の中には宇宙人が混じっている」といった、おどろおどろしいナレーションは忘れられない。その番組を見たのは、夏休みか冬休みで訪れた田舎の祖父母の家だった。あまりの恐怖に祖父母の家の片隅にあった薄暗いトイレに行けなくなり、母を入り口で待たせていたほどだ。

 さて、数日前、友人と夜釣りをした。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたが、こもり続けると不満が募る。私のストレス解消は、自然の中で過ごすことと料理。人が少なく自然にあふれる海辺で魚を釣って、料理して食べようと思いついた。

 街灯がない岸壁では、日が沈むと空一面に星がまたたき始めた。釣り竿(ざお)の先につけたあかりと星空を交互に見ながら、心地よい夜風に吹かれていたその時だった。空に飛行機雲のようなものが伸びていくのが見えた。なんだろうと不思議に思いながら持参していた天体観測用の双眼鏡をのぞくと、数十個の光の粒が1列に並んで西から東へ動く行列が見えた。思わず声をあげた瞬間、全てが消えた。

 初めて見るUFOだとしか思えず、同行の友人と大騒ぎになった。宇宙人とUFOは大人になっても苦手だったはずが、興奮と喜びが怖さにとってかわっていた。

 だが、これはどうやらUFOではない可能性が高い。米ロケット・宇宙船開発会社スペースXが、高速インターネットサービスを提供する目的で多数打ち上げた人工衛星「スターリンク」だったらしいのだ。

 それを知った経緯がいかにもイマドキである。「光の行列」が消えた直後、まずツイッターで検索。「UFO」と入力すると、九州や山口、広島で同じ光景をほぼ同時刻に見た人がいることがわかった。そこで私も投稿。全く知らない山口に住む人とやりとりまでした。私の投稿を見た友人がネットで検索をして、人工衛星らしいという情報を教えてくれたのは、それからまもなくだった。

 人工衛星なら予定された時刻にまた見ることができるらしい。あの不思議であやしげな光景をもう一度見たいと思う気持ちと、UFOだったと信じたい気持ちが入り交じっている。ところで、あの日の釣果は小さめのアナゴ1匹。大きい物体との遭遇はいまだに怖いが、未知との遭遇は意外にも楽しいという新しい気づきを得た。初夏の夜に味わうアナゴと共に歓迎したい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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