金井啓子の現代進行形

高齢者問題取り組む人を国会へ

2021年7月8日

いずれ誰もが要介護者に

 母が引っ越しをして、41年前に住んでいた所に戻った。と言っても、通常の転居ではない。今までお世話になっていた介護老人保健施設(老健)から、小規模多機能と呼ばれる高齢者施設に移ったのだ。

 ただし、昔住んでいた所へ戻ったのは半分本当である。母は父と結婚してまもなく、大規模な団地の一室に入居した。そこで私や弟が生まれ、約15年間住んだのだ。250棟近くあったその団地のほとんどは、今は高層住宅やショッピングモール、保育園などになった。だが、私たちが住んでいた棟を含めて数棟だけはそのまま残った。ただし用途が変更され、私たちの棟は高齢者専用となり、そこにつながって建てられた別館がより多くの介護を必要とする高齢者のための施設となった。母はそこに入所したのだ。

 昨春から介護が必要となった母は、まずヘルパーの助けを借りたりデイケアに通った。その後、病院での生活を送った後に老健に入所、そして今回の施設にお世話になることになったのだった。

 4月にも本コラムで母の介護について書いたが、介護の知識がゼロだった私は、母の介護についてはすべて介護のプロたちに相談し、何らかの解決策を提案してもらってきた。今回も、さまざまな能力が衰えてきた母を施設に預けたままにはせずに自宅にも連れ帰りたいという、弟と私の希望を話した結果、この施設が提案されたのだった。母がさらに弱れば、より手厚い介護を受けられる施設に移らねばならない。だが、一時的ではあっても、時々自宅へ戻りつつこの思い出深い場所で母に心地よく暮らしてほしいと願っている。

 そういえば、施設の食事を提供しているのはすぐ隣にある食堂なのだが、そこでは誰でも食事ができるようになっている。数日前に私は母を訪ね、母と一緒に食堂で同じメニューの定食を食べた。病院や施設での生活が続いた母と共に食事をするのは数カ月ぶりのことだった。

 今は母が主役の介護生活だが、私もいつかは介護を受ける身だ。ひとつひとつ介護の現実を学んでみると、思っていたよりは多様な介護を受けられて助かるのだという驚きが強い。だが、その一方で、高齢者の現実に合わせるためにはもっと柔軟な運用をできないのかという要望も浮かんできた。介護の現場で働く人の待遇も改善が必要だと実感した。

 介護は法律に沿って提供されている。つまり、国会の審議内容が法整備につながっているわけだ。となると、介護に関してどんな公約を打ち出している人を国会に送り出すのかが、これから老いていくすべての人に影響を及ぼすことになる。秋には総選挙が行われる。目の前の懸念材料である新型コロナウイルス感染症に対する政府の対応も気になる。だが、数年後、数十年後の自分が安らかに住まうことができる国を作ることも、投票先を決める観点として忘れずにいたい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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