金井啓子の現代進行形

自粛要請を無にする大臣発言

2021年8月12日

発端はバッハ会長の“銀ブラ”

 東京五輪の閉幕後に、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が関係者を従えて銀座を散歩した。いわゆる銀ブラだが、これが話題を呼んでいる。ただし、この「話題」は良い話題ではない。むしろ非難やブーイングのほうが多い。

 コロナ感染の心配がない平時なら何ら問題はない。道行く人たちと触れ合い、気さくに記念撮影に応じるバッハ会長の姿は好感を持って人々から受け入れられたはずだ。だが、今は違う。緊急事態宣言が出された東京でバッハ会長の銀ブラは人だかりを生み、「密」の状態を発生させたからである。

 そもそも五輪の選手たちは競技中の外出は禁止であり、閉会後は48時間以内に選手村を離れて帰国するルールになっていた。バッハ会長はこのルールの対象外とはいえ、せめて五輪の総元締として選手たちに恥じないルール順守の節度ある態度を見せてほしかった。

 問題はバッハ会長の行動だけではない。丸川珠代五輪担当相の発言もそうだ。バッハ会長の銀ブラについて丸川担当相は10日、閣議後の会見で「不要不急かどうかは本人が判断すべきだ」と言い切った。この発言は後々尾を引くだろう。

 確かに不要不急かどうかの判断は個人に委ねられているが、それはあくまでも良識の範囲でのことだろう。たとえば県をまたいでの遠出は、良識と常識に照らし、誰もが緊急事態だと思える状況に限られるはずだ。繁華街に飲みに行く人が「不要不急ではないと判断した」と自己正当化したところで説得力はない。かえって感染リスクが増えるだけだろう。

 では、バッハ会長の銀ブラはどうだったか。どう見ても不要不急ではないとは思えない。緊急事態宣言の時期に散歩して、わざわざ密を作り出す必然性などない。いわばバッハ会長の行動は繁華街で飲み歩く人と大差なく、丸川担当相の「本人が判断すべき」という発言はバッハ会長の行動を正当化すると同時に後者の人たちの行動も擁護することになる。

 一方、西村康稔経済再生担当相は10日、コロナの感染状況が深刻化していることを指摘し、お盆に帰省をして親族や同窓会で集まることは「絶対に避けていただきたい」と強調した。しかし、丸川担当相の理屈なら故郷に帰省して親戚や友人たちとドンチャン騒ぎをしても「この集まりは不要不急でないと判断した」と言えば済んでしまう。西村経済担当相の国民への要望も、ただただむなしく響くだけだろう。

 ボランティアの問題やらコロナ対応やらで開幕前から迷走を繰り返し、閉幕後もIOC会長の行動や大臣のトンデモ発言で迷走する今回の東京五輪。4年に一度の国家的大イベントは果たして成功だったのか、理解に苦しむところである。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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