金井啓子の現代進行形

呆れた密発生の音楽フェス

2021年9月2日

他人の首も絞めることに気づけ

 兵庫県猪名川町に大野山という山がある。標高約750メートルの山頂は夏でも涼しく、また夜になれば満天の星が見る人を魅了する。私もその涼しさと美しさを何度も楽しんだひとりである。頂上には立派な天体望遠鏡を備えた天文台があって一般公開されており、星の勉強や天体観測をするにはもってこいの場所である。

 大野山の山頂には以前、無料のキャンプ場もあり、関西近郊から訪れる人たちで賑(にぎ)わっていた。だが、それも数年前に閉鎖された。ごみを持ち帰らず放置する人が増え、地元の人たちの怒りを買ったからだ。キャンパーに注意してもごみの放置は改まらず、最終的に閉鎖になってしまった。一部のモラルのない人たちが無関係な他の人の楽しみまで奪うことになってしまった。今はまたオープンされたが、日中しか過ごせず到底キャンプ場とは呼べない。

 愛知県常滑市の県国際展示場で8月28日と29日に開かれた音楽フェスでも似たような出来事があった。フェスには上限人数の5千人を超えた参加者があり、しかも多くの人がマスクも着けず酒も飲んでいたというのだ。

 緊急事態宣言が出されている愛知県で、わざわざ密を発生させたフェスには大村秀章県知事と常滑市の伊藤たつや市長も激怒した。伊藤市長は主催者に抗議文を出し、「極めて悪質なイベント」「強い憤りを覚えます」などと綴(つづ)り、「今後二度と本市の施設であるりんくうビーチを使用させない」といった文言も記したという。

 大村知事と伊藤市長の怒りは当然だろう。国も自治体も、そして私たちもコロナ感染の拡大を防止しようと懸命に努力している最中なのだ。不要不急の外出を控え、飲食店も酒類の販売を自粛したり営業時間の短縮を余儀なくされている。私たち一人一人の努力をあざ笑うかのようなフェスの開催は、知事や市長でなくても呆(あき)れ、そして怒りが湧く。

 結局、このフェスの主催者は常滑市の公共施設から締め出された。今後、事情を知った他の自治体も実質的に同じ措置を下すだろう。

 キャンプにしろフェスにせよ、楽しみたいという気持ちは理解できる。しかし、どのような遊びやイベントであっても守るべき最低限のモラルとルールがある。そのモラルとルールを無視して自分たちの享楽だけを追い求めれば、場所の使用が禁止されるといったペナルティーが待っている。しかも、そのペナルティーは違反者だけでなく関係のない人まで巻き込んでしまう。これほど迷惑な話はない。

 「自業自得」「自分で自分の首を絞める」という言葉があるが、騒動の種をまいた本人だけでは済まず、周囲に迷惑をかけてしまうこともある。大人なら、それくらいの常識と判断力くらいは持ってほしいものだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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