吉武英行 五感の旅

すがすがしい要求に耳を

2020年3月2日
お客さまの満足度アップには「聞き上手」になることも大事

 私は今、事あるごとに言っている。「話し上手な宿」から「聞き上手な宿」になろうと。あくせく自分を売り込むより、お客さんの言い分に素直に耳を傾けて、少しゆっくり日々を過ごそうという提案である。そんな悠長なことを言っている事態ではないという声も聞こえてきそうだが、しばし立ち止まって、あたりを見るのも悪くないと思う。

 たわいないが、すがすがしい話なので紹介したい。私が三重県伊賀でリゾートを運営しているとき、アメリカ人のご夫婦が2食付きのプランで2泊されたときの出来事。1泊目は何事もなく経過し、問題は2泊目に起きた。1階ロビーは全面ガラス張りで、ガーデンの眺めはすこぶる良く、素晴らしいので有名だった。そのご夫婦が、2回目の夕食をここのロビーで食べることはできないかと。言われてみれば至極ごもっともな要求ではないか。

 私は「超法規的」な措置ではあるが、ロビーに仮設のセッティングをして夕食を食べてもらった。もちろんお二人は大喜び。万事めでたしだ。建物で一番眺めのいいロビーが使われるのは、チェックインとチェックアウトの慌ただしい時だけ。魅惑的な夕方や月光が美しい夜に、使用しないのは考えてみればもったいない話である。

 一番眺めのいい所で食事をしたい。なんというシンプルで控えめな「要求」だろう。応えてあげれば満足度120%ではないか。そういう「たわいない」要求が、旅館の「慣習」を知らない外人さんから出ると、「そうだよな」ということになる。

 ロビーで食事は出さないもの。そういう慣習的に成立した「おきて」も、お客さんの素直な声を上手に聞けば、実は根拠薄弱なものであることが分かる。「聞き上手」というのは、そういう精神のゆとりを持とうという提案でもある。

 (ホテル・旅館プロデューサー)



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