吉武英行 五感の旅

「いらっしゃいませ」が言えないレストラン

2022年8月1日
おもてなしの基本は笑顔とあいさつ

 中に入っていくと、スタッフにいきなり「何名ですか!」と言われるレストラン。「その前に何か言うことがあるのでは!」なんて、筆者は口に出して言うほどの猛者ではないが、最初の一言「いらっしゃいませ」が言えない店にはがっかり。あいさつは社会の基本だ。

 あいさつ抜きが多いのは、いわゆる行列のできるレストラン。マスコミで紹介されて急に有名店になり、押し寄せるお客にスタッフが混乱するのはまだ許せる。だが、人気があるからといって、並んでいるお客に「食べさせてやるのにあいさつはいらない」と言わんばかりの店は不愉快だ。ただし、こういう店の人気は続かないから。

 人気のレストランで、あいさつよりずっと難しいのは断り方。順番待ちもいっぱいで、後ろのお客を断念させる時だ。おいしそうに食べる人々を尻目にすごすごと帰るのは、お客にとって最悪の時。気分を害したままでは、もう二度と行かないだろう。

 昨年のことだが、舞浜のヒルトン東京ベイのイタリアンレストランが満席で、スタッフによると10組待ち! 仕方なく帰りかけたとき、マネジャーが走り出てきて「せっかくいらしていただいたのに。申し訳ございません」と頭を下げられ、館内の他のレストランにも問い合わせてくれたのだが、どこも満席。この日は他のホテルを利用したが「これに懲りずに、どうぞまたいらしてください」という言葉に、翌月またトライ。以来、このレストランは打ち合わせや会合の定番レストランなった。

 われわれ利用者は単純なもの。正直なところ、筆者も受け付けスタッフに断られたまま帰っていたら、もうここへは来ることもなかったかもしれない。その場の責任者が、謝罪のためわざわざレストランの外までわれわれを追いかけてきてくれたという心遣いがうれしかったのだ。お客が店に入った時の、笑顔と「いらっしゃいませ」のあいさつは、楽しい食事へのプロローグ。

 (ホテル、旅館プロデューサー)




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