澪標 ―みおつくし―

“ブッ飛んだ”濃い客層 西成のクラシック音楽バー

佐竹 昭彦
クラシック音楽バー ココルーム店主
2019年8月12日

 この世には論理や合理性では説明できない出来事が多々あります。ましてや酔っぱらいが多い地域の、飲み屋街のド真ん中ともなると、おかしなことの方が日常茶飯事なのです。私は3年以上、ここでクラシック音楽バーの店主として通行人、来店者、冷やかしの人々などに日々対応するだけで、価値観が180度変わるような体験を数えきれないほどしました。今回はそんなブッ飛んだ、他のバーではあり得ない出来事を三つ。

 まず「ツケで飲ませろ」という来店者。これは店側からすると無償で金を貸す行為と言えます。何度か来店したことがあってお金が足りなかったり、財布を忘れたなどの事情があればまだしも、初対面ですぐに「ツケ、行けるか?」と入って来たオッサンには驚きました。どこの誰かわからないし、無銭飲食になりそうなので入店を拒否。他にも開店以来、ツケを頼む人は10人ほどいて、金銭感覚がだらしない何人かには面と向かって説教したり…こんなこと、バーですることではないよなあと思う日々です。

 今年の春のこと。来店7回目で、いつもはきちんと会計をする70代男性が、その日はいつもの倍以上飲んで豪遊。会計時に4500円を催促すると「今日は金がない。でも、これがあるんや。当たりで5千円になるから、これでヨロシク!」。そこには某全国宝くじの券が20枚ほど。無論当たりかどうか、ここは宝くじ売り場ではないのでわかりません。物々交換での会計は認めませんし、そもそも換金してから来店しろ! と説教しました。そして来週までに4500円を返すよう念入りに伝えましたが、数カ月たっても現れず(笑)。

 ほかにも、たった300円の会計時に「この500円どっちがいい?」と500円と500ウォンを並べた酔客など、ろくでもない実体験は盛りだくさん。さまざまな人々に対応し、これもバーテンダーのやるべき仕事なのだと日々精進(もしくは消尽?)しています。

 こんな笑い話がある一方で、素晴らしい出会いもたくさんありました。クラシック好きの来店者が、最近は3割ほど増えているのです。某合唱団や某管弦楽団の団員、クラシック音楽業界の著名人などがご来店。マーラー作曲の「千人の交響曲」を川崎で演奏した指揮者、坂入健司郎氏(その日のライブCDがアルトゥス社から絶賛発売中!)や、美人ピアニスト法貴彩子氏もご来店。酔客もいれば、真剣に音楽を聴くお客さまもいたりと、激しいギャップの店内。こんな混沌(こんとん)とした環境でクラシック音楽を流す様子から「クラシック音楽バーの極北」とも言われます。

 関東の方々やネット上のファンからは「超常現象」やら「伝説の店」とも呼ばれています。実は客層よりも、私の店の存在自体がブッ飛んでいるのかも。それではまた次回。次はちゃんと音楽の話をさせていただきます。

 (大阪市西成区、さたけ・あきひこ)



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