澪標 ―みおつくし―

展示会へ 〜おひとりさま新幹線〜

杉村 春美
杉村繊維工業株式会社・Fabrico・マネージャー
再織手織り教室講師
2019年10月28日

 先日、東京で合同展示会があり、自社ブランドの商談に出た。今回は一人ということで、緊張の中、気合を入れて出かけた。バイヤーさんと話をしていると「近くの工場を見学したことがあるよ」とか「嫁の実家が関西なんです」と声をかけてくれた。エコファーのネコクッションを手に取り「わぁ手触りがいい」と何度もなでて、見入ってくれた。商品に興味を持ってもらえ話が弾むと、緊張も吹っ飛んだ。あっという間に2日間の展示会を終え、慌ただしく最終日の夕方、片付けをして品川駅に向かった。

 帰りの新幹線の指定席を取りに、みどりの窓口に急いだ。「窓側お願いします」と言ったが「あいにく金曜日の夜で、窓側も通路側も席が埋まっていて、3列の真ん中しか空いていません。窓側か通路側をご希望でしたら、2時間後になります」。そんなに遅くなると、今日中に和歌山に帰れない。「その真ん中の席でいいです」と席を取った。

 展示会は、お昼ご飯を食べる時間もなかったので、おなかはペコペコ。とりあえず何か新幹線で食べる物をゲットしなければと思い、駅構内の専門店で少しだけリッチなタラコ半熟卵のおにぎりと、ペットボトルのお茶をそそくさと買い、指定席の新幹線にギリギリ駆け込んだ。

 子ども連れや女子の団体もいなくて、出張帰りの男の人ばかりだ。両側はスーツを着たサラリーマンが既に座っている。真ん中で動きも取りにくい。少し体をすくめた。お弁当を食べるのだろうと思っていたら、周りは誰も食べない。静まり返っている。両隣はコクリコクリと眠り始めた。でも、もう私はおなかがペコペコで、思考力も鈍るほどになってきているので、丁寧に包装された二重のビニール袋から、おにぎりを出した。

 バシャバシャ袋の音が静かな車内に響きわたった。もう食べるしかないと、大きな一口、二口と食欲にまかせてがっついた。早く食べないと。とりあえず口に入るだけ入れて、後でモグモグしよう。おにぎりがほぼなくなった時、「あれ〜お米が胸につかえて下に降りない」。胸に痛みが来た。ほとんどかまずに飲み込んでしまっていたようだ。「そんな時は水分!水分!」とお茶を流し込む。流れない。ますますお米が膨らんでしんどさが増してきた。

 これはマズイ。冷や汗が出てきた。とりあえずトイレに行こう。口を押さえながら、あたふたと走り込んだ。吐こうとしたが出てこない。息苦しい。胸をコブシでたたいてみる。下りない。そうだ。飛ぶしかない。無我夢中で何回も、ドタンバタンドタンバタン、トイレでひたすら飛んだ。やっと少しずつ、胃の上のボールのような米の塊が、下に降りてきたような気がした。

 「助かった」。胸のつかえが徐々にとれて、顔に手足に血の気が戻った。(ヤレヤレ〜ふぅ〜)しばらくして、胃が落ち着くと、私は身だしなみを整え、何食わぬ顔で座席に戻り、おちょぼ口でお茶を飲みながら帰路についた。こうして、私の東京展示会への旅は、とんだ(飛んだ??)ひとりドタバタ劇で、締めくくったのであった。

 (和歌山県橋本市、すぎむら・はるみ)



サイト内検索