澪標 ―みおつくし―

空き家問題は炭鉱のカナリア

清水 透
株式会社ウィル
リノベーションコーディネーター
2019年11月4日

 空き家問題、である。新聞にも経済雑誌にも新書にも、空き家問題が毎日のように掲載され、よほど情報をシャットアウトしている人でなければ、「空き家が何か問題なんだな」と何となく見聞きしているのでは? 簡単に言えば、戸建もマンションも、めちゃめちゃ家が余るよ、2033年には日本の家の3分の1が空き家になるよ、草ぼうぼうの空き家があると景観も悪くなるし…、というのが空き家問題と言ってよいと思います。

 言うまでもないことですが、人口減少問題とセットですよね。一時期住民の超高齢化による「限界集落」というトピックスがありましたが、その延長線上の話。これに対し、さまざまな書籍では状況報告および対策が言われています。どの本も現状のデータ、近未来予想図、「空き家バンク」創設など対策について書かれていますが、住宅業界の最前線にいる身として、私の思う空き家問題についての要諦を申し上げます。

 なぜ空き家問題が起きているのかと言えば、大きく三つ。(1)新築の家を作るのを制限しないから(2)売買の際、新築住宅の方が不動産業者、一般消費者双方にとってメリットが大きいから(3)中古住宅に魅力的なものが少ないから。説明しきれませんので重要と思う概要を、あくまで個人の見解としてお伝えします。

 まず今回は(1)。多くの書籍・記事でも(1)にあまり触れませんが、「めちゃめちゃ家余って困るよね」って言ってるそばで、次々に新しい家を建てまくっています。駐車場が、山が、倒産した工場が、田んぼが畑が、多少の規制はありながらも、どんどん新築住宅に生まれ変わっていく申請を、行政はほぼ止めません。バケツから水があふれて困っているのに、蛇口を閉めずして、こぼれる水を眺めながら「空き家が空き家が…」と右往左往しているような滑稽さを覚えます。人が減って家が増えているから空き家が増えている。シンプルな話です。

 昨年、住宅の研修でシリコンバレーに行きました。世界的IT企業の本社ひしめくエリアは、とんでもない住宅不足で、エリア平均年収が1200万円を超えるというのに、「家が無いから」という理由で家を買えない人が続出し、車で寝泊まりしているような人もいるほど。学生ワンルームマンションの賃料が30万円とか、案内された住宅は軒並み1億円前後。

 町から町への移動の車窓からはさすがアメリカ、広々とした土地が独特の山並みの手前に広がっている。…ん? 建てたらええやん?? と日本人の現地不動産営業ウーマンに聞くと、「街並みを守るため規制が強く、新規で開拓していくのはとても困難」とのこと。アメリカで、住宅取引量の9割を中古住宅が占めるゆえんですね。住宅が足りな過ぎる現状も問題ですが。

 そして日本。北関東のわが実家の周辺も例に漏れず、幼なじみの実家などに空き家が見え始めています。問題は、住宅地に変貌した、私が幼少期にカエルを取りまくった田んぼの方。余っている家の横の田んぼという人工緑地を、住宅地へ変換させ尽くしているのです。

 この矛盾に目をつぶって、私ども民間不動産業者の動きに一任するという住宅政策は限界です。一気に方向転換を…、というのは急には無理でしょう。でも、段階的に新築住宅の着工戸数を絞っていき、新築住宅より中古を買った方が、税制・金融的にも有利に変更させていく。われわれ不動産業者も中古住宅の流通促進に知恵を絞る。若い世代は中古住宅への抵抗も少なくなってきているようです。戦後の日本に、質はともかく、大量の住宅供給をなすことを第一目的とした政策、お疲れさまでした。

 ここからの日本の住宅問題は「住文化の醸成」「質の高い家の建築」「造った家を住み継ぐこと」。良いもの作って長く使う、ですね。空き家問題は日本の住宅問題の炭鉱のカナリアです。官民力を合わせて大転換を図るとき、とカナリアが告げています。

 (兵庫県宝塚市、しみず・とおる)



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