澪標 ―みおつくし―

外国人客でにぎわう店内 西成のクラシック音楽バー

佐竹 昭彦
クラシック音楽バー ココルーム 店主
2019年11月18日

 西成の飲み屋街で働いている。この地域は5年以上前から外国人観光客がどんどん増えていて、時間帯によれば日本人よりも外国人の方が多かったりする。当店の近隣は、国内でも指折りのゲストハウスやバックパッカーが利用しやすい激安ホテルの密集地だからだ。みんな十人十色で面白い。今回は外国人客との印象に残るエピソードを記すことにする。

 まずは開店初日の深夜にさかのぼる。最初の外国人客が最も思い出に残る人物だった。身長190センチの巨漢の台湾人Wさんは、店頭に貼り出していた巨匠指揮者や演奏家のポスターを見て、通りすがりに入店。日本酒を3種類ほど薦めると、彼は即答で全部飲むと言った。「お薦めの演奏を」と問われて、カツァリスが弾く「剣の舞」を紹介したら、台湾でのコンサートを聴いたと興奮しながら応えてくれた。

 開店初日から台湾のクラシック音楽マニアと、まさかの巡り合いである。Wさんは「台北のタワーレコード」で勤務し、クラシック音楽評論家らが絶賛する特選盤を個人的に輸入して聴いていたそうな。それから台湾最大手の音楽レーベルのクラシック音楽部門でも働き、指揮者ヤンソンスやブロムシュテットのコンサート会場でのCD販売も任されていた。かなりの愛好家である。

 とくに関西人とは気が合い20回以上も当店へ。私と年も近く、はしご酒をして吐くこともあった。私に酔っぱらって抱きついたり、泣き出したこともあった。酔った勢いで、私は妊娠中の妻のいる家に帰らず、早朝からWさんと新幹線でビールを飲んで、宮城県の仙台観音様の胎内巡りに行った。もちろん、妻から怒られた。翌々日の夜中、仙台大観音の安産祈願のお守りと秋葉原で購入したスッポンの錠剤を手土産に帰った。その後、無事に産まれた娘は現在2歳ですくすく成長中。忘れられない思い出である。

 次に思い出すのは、数カ月に一人の確率で突如現れる世界各国のうら若き美女たちだ。ピアノとアニメが大好きな金髪碧眼のフィンランド美人。お客さんらにすぐに取り囲まれたリトアニアの女優。ブルガリアの血をひく黒髪でグラマーなアメリカ人はまるで手塚治虫先生が描くような美人。人形の様にかわいいタイ人や踊り子の中国美女もいた。ポーランド系オーストリア人は美人ピアニストのブニアティシビリ似。いい匂いがするフランス美人3人組などなど。入店された瞬間、ここはどこの世界? 夢の国? と思う瞬間も多々。他の近隣の店と違い、カラオケが流れていなくて、バーっぽいから来てくれたようだ。

 西成は酔っぱらいのおっさんだけが来る街とあなどることなかれ。各国の美女らと聴くクラシック音楽、おいしいお酒。最高である。もちろん日本の美人も毎週、ご来店。本当に最高。ああ、こんなことを記していたら、妻にまた怒られそうだ。この辺で筆を止めておきます。

 (大阪市西成区、さたけ・あきひこ)



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