澪標 ―みおつくし―

障害者第三の就労 ソーシャルファーム

姫路まさのり
放送作家、ライター
2019年12月10日

 2018年に発覚した省庁による「障害者雇用 水増し問題」。怒り心頭に発すると同時に、障害者雇用の実態には、注目しなければ課題が多く潜んでいる事を失念してはいけない。

 障害者において、幾つかの就労形態が存在する中、【一般企業】への就職が第一に浮かぶが、法定雇用率を達成した企業は45・9%と半数に満たない。そこで現実問題、多くの人間が働く場所として求めるのが【作業所】と呼ばれる場所である。しかし、1カ月毎日働いて、受け取る工賃は1万円〜2万円と低収入が常態化。同時にご家族は施設に、食事代や送迎代などを支払っている事を思い見ると、“お金を払って働かせてもらっている”という、驚天動地の事実が日本全国で当たり前のように見受けられる。

 作業所は1960年代の障害者運動の流れをくみ、「生活のリズムを取り戻そう」と、ご家族の手により全国で次々と生まれていった。「働きたい」という本懐を実現するため、無権利の状態に置かれている障害者を、『働く場』というステージに登場させた事は、偉とするに足る成果である。

 かるが故に、“登場”から数十年が経過した今でも、「労働の喜びを感じるだけでもありがたい」と考えるご家族や関係者が多い。同じ時間働いても健常者の給料に手が届く事はなく、年数と共に募る索漠とした気持ちは、「親なき後への不安」にもつながっていく。

 無愛想な壁のように立ちはだかるわずか二つの選択肢に対し、今、『第三の働く形』として興亡を担うのが『ソーシャルファーム』という形態だ。

 ソーシャルファームとは、障害者雇用の場に「どうしたら利益を上げられるのか?」というビジネスの視点を取り入れ、一般企業と競争できる事業を展開するという取り組みだ。1970年代のイタリアで、精神科病院の患者と職員らが協力してレストランやカフェを作った事が始まりとされ、欧州ではホテルなども含め幅広い業種で1万か所以上も存在している。

 日本の福祉の世界ではもうけが度外視され、利益を上げる事に対し嫌悪感や忌避感を抱き、“金もうけ=悪”とくみ取る人間が少なくない。だが、利益あればこそ改善できる暮らしもあり、給料を得る事で『社会に認められた』と感じる障害者も多い。家族を養い、子どもを授かり、働く喜びと誇りを持ち、新たなステージで人生を歩み始める人たちも大勢いる。

 日本には2千万人以上の社会的弱者が存在すると言われ、彼らが生涯を通して働ける空間の提供は、地域の活性化も含め、社会の循環に大きな影響をもたらす可能性を秘めている事は間違いない。

 個々の能力差を差別として扱うのではなく、固有の能力として捉え市場のニーズとマッチさせていく。

 漠然と広がる不安の中、沈黙で塗りつぶされた現実に思案を巡らす事は、私たちさえも忘我している「生きる事」の大切さを感懐するきっかけにもなるはずだ。何より、それこそが咽喉を扼(やく)する『働き方改革』であると信じている。

 (大阪市淀川区)



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