澪標 ―みおつくし―

褒めの効能

安井 潔
医療法人 弘清会
四ツ橋診療所院長
2019年12月16日

 前回、「日々是笑日」というタイトルで、笑うことを大切にしている大阪の日常を書かせていただいた。それ以外にも大阪の日常で特筆すべきことがあったので、今回はそちらについて書かせていただこうと思う。

 大阪は褒め文化の地だ。こう書くと疑問を持たれる方もいらっしゃるだろう。けなし文化なんちゃうの?と思われるかもしれない。それもうなずけるのだが、よく考えてみるとけなすというよりイジる文化である。それは愛情があってすることなので、厳密には純粋にけなしているとは言い難いように思う。

 診療をしている時、ふと「褒め言葉を聞かない日がない」ということに気がついた。例えばある日、髪を切った患者さんに「髪切ったんですね!前の髪形もすてきやったけど、新しいスタイルもよくお似合いですね」とスタッフから声がかかる。また別のある日は、患者さんから「この診療所の人たちはいつも明るくていいね。こっちも元気になるわ」とお声がけいただく。これはクリニックのスタッフと患者さんの間だけではなく、スタッフ同士や患者さん同士にも見られる現象である。大阪で何げなく日常的に行われているこの“褒める”という行為、実は驚くべき作用をもたらすそうなのだ。

 2010年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブルース・ドブキン教授が約180人の患者に対し、こんな実験をした。リハビリをする際に「褒めるグループ」と「褒めないグループ」に分け、その後の歩く速度に変化が見られるのかを比較したという。その結果、褒められた患者さんは、褒められなかった患者さんより、歩くスピードが約2倍も速くなることがわかったそうだ。

 褒めることによる影響は褒められる側だけでなく、褒める方にも現れる。脳生理学者の有田秀穂氏は著書の中で「褒めるとオキシトシンが脳内に分泌される」と述べている。分泌によって『人への親近感、信頼感が増す・ストレスが消えて幸福感を得られる・血圧の上昇を抑える・心臓の機能を良くする・長寿になる』などの効果があるということで、褒める側にも良い効果が出ることはなかなか有益な情報に思う。

 では、実際にどのように褒めれば良いのか。調べてみると上手に褒める「三つのポイント」というものがヒットした。(1)「具体的に」(2)「すかさず」(3)目標は「低く」。これを意識して褒めると効果的だそうだ。

 思うに、関西の中でも大阪の人はとりわけこれが得意だと感じる。目についた細やかな事柄を拾ってストレートに褒めることが自然に身についている。笑うことに加えて、これもまた大阪の素晴らしい特徴と言える。ささいなことを褒め合い、小さなことでも笑い合って、毎日を幸福に過ごしていきたいものである。

 (大阪市西区、やすい・きよし)



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