澪標 ―みおつくし―

中古住宅文化醸成の端緒は、ホームインスペクションにあり

清水 透
株式会社ウィル
リノベーションコーディネーター
2020年2月11日

 「ホームインスペクション」をご存じでしょうか?住宅診断のことで、「家の人間ドック」のようなものです。その診断をする人を「ホームインスペクター」と呼び、私もそのひとり。この資格を取得するきっかけになったのは、もう20年前。大学卒業直後、不動産仲介業に従事していたときのことです。それは、当時の私にとって、大変ショッキングなものでした。

 「立地は気に入ったけど、清水さん、この家って大丈夫?」。築40年の中古戸建を案内したお客さまから発せられた言葉に私は戸惑いました。大丈夫?う〜ん、阪神大震災も乗り越えているし、先月まで売り主さん住んでたし…。語弊を恐れずに言うと、不動産仲介営業マンは、今も昔も建物についてはそれほど知りません。

 例に漏れず、当時の私は「大丈夫」の意味も分かりません。そこで、ガッチリした新築注文住宅を造る工務店のおっちゃんを切り札として連れて行き、物件を見てもらいました。ところが、なんと見る術を知らない!家の中を歩き回り、窓の開け閉めをして傾きを確認し発した一言は、「…まあ大丈夫ちゃうか?」でした。

 また、築30年の木造住宅の取引をしたときは、某自治体から派遣された一級建築士が「公的な耐震診断」をしました。その建築士が「私、RC(鉄筋コンクリート)造専門なんですよね」と、ボソリとつぶやきながら行うのは、ただチェックリストを埋める形ばかりの診断。そのお方は、私ですら屋根裏に入って確認した壁の中の構造木材を、見ようともせずに見落としていました。注文住宅の現場監督も、県から派遣される一級建築士も、中古戸建の「大丈夫?」の問いや期待に応えられないんです。裏でも表でもなく、不動産業界の実情、日常を知った出来事でした。

 日本では、中古戸建があまり売れません。大きな理由の一つが「その中古住宅が大丈夫かどうか分からない」からではないでしょうか。中古車を安心して買える理由は車検があるから。少なくとも数年に一度の車検に通ってるなら大丈夫だと、車にうとい私でも判断できます。中古住宅には、車検に相当する制度以前に、チェックできるプロもいなければ、必要と考える消費者すら多くはいませんでした。

 しかし、今、中古住宅を100以上にわたる項目からチェックできる人が生まれています。それがホームインスペクター=住宅診断士。ホームインスペクションとは、「住宅一時診断」のことで、建物の傾き、外装材のひび割れ、雨漏り、シロアリ、水回り設備の故障等々について全体的な診断を行い、見解を報告する人のことです。戸建もマンションも、今のところ完全な私有物ではありますが、少し、公的な目線が必要だと思いませんか?

 何をもって問題有りで、何をもって問題無しなのか。普及するのはもう少し先になりそうですが、「私の体は大丈夫なんだろうか…?」と、杞憂(きゆう)に過ぎないことを解消するため人間ドックにいくように、「この家って大丈夫なんかな?」と不安に思うなら、ホームインスペクションを受けて住まいの現状を知るべし。買う時も売る時もリフォームする時も、資産として大切な家族に残したい時も、まずは知ること。

 空き家問題を含む中古住宅文化の醸成の端緒は、ここにあるような気がします。

 (兵庫県宝塚市、しみず・とおる)



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