澪標 ―みおつくし―

『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。』

姫路まさのり
放送作家、ライター 
2020年3月17日

 新刊『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。〜ソーシャルファームという希望』を新潮社より今月17日に発売する。取材と執筆に擁した時間は実に5年―。その間、障害者に生産性は無いと決めつけて蛮行に及んだ相模原の事件に、障害者雇用水増し問題が発覚。都度、「今、何を伝えるべきか?」という自問自答と共に筆を止め、テーマこそ一貫していたが修正を繰り返し刊行までたどりついた。

 京都府舞鶴市にあるフレンチレストラン「ほのぼの屋」。年間1万人以上が訪れ予約が取れないと称されるこの店の出発点は、支配人・西澤心さんが感じた「同じ人間なのに働く事の格差がある事への疑問」だった。障害者施設で支払われる“工賃”の少なさに肝を消し、障害がある仲間たちと共に作った理想の店。

 そんなほのぼの屋で、誰もが口にする言葉がある。

 『2万円で仕事ぶりが変わる。5万円で生活が変わる。8万円で未来が変わる。10万円で働き方が変わる』

 給料で初めてジーパンを買う。おしゃれに目覚め、身だしなみや清潔感を気にするようになる。すると飲みに出かけるなど、スゴロクを進むように生活圏や人生観が変化していったのだ。「5万円」を一つの節目として生活の幅が広がり、「8万円」を越え出すと結婚、1人暮らしと夢や人生の展望を語る余裕ができる。大台「10万円」にたどり着くと、“お金をもらっている責任”から、お客さまのために働くという悟性が息吹き始める。

 ある日の帰り際、常連客からこんな言葉を聞かされたという。

 『10年もたつのに、ここの店のグラスにはホコリひとつない』

 その言葉にスタッフの男性がこう答えた。「グラスの向こうに、お客さんの笑顔が見えるんです。『ほのぼの屋ではこれが当たり前』。当たり前を続ければ、ようやく『特別な事』として認められる」。

 給料が増えるにつれ、より良い仕事のために何をすべきか考えるようになったという彼も、長らく精神障害に苦しんでいる。それでも今では2人の子どもを養うパパであり一家の大黒柱だ。訪れるお客さんは、「障害者が働く店なんて慰みは誰も感じていない」とはっきりおっしゃった。おいしい料理と醸し出す空間に魅せられ足しげく通うだけだ。

 他に2億円を売り上げるクッキー工場「がんばカンパニー」。ワイナリーを手掛ける「AJU自立の家」。障害者とアートという視点からボーダレスミュジアム「NO―MA」や、作家・古久保憲満さんご家族にも話を伺った。

 制度の問題も含め、もうけが度外視されがちな福祉業界。だが、利益や給料を得る事で見えてくる自立も必ず存在するはずだ。そこに障害者・健常者という概念は必要ない。僕自身、取材を通して「仕事への価値観」が間違いなく変わった。働く意味について管見を改めさせられた。

 伝えたいメッセージを細大漏らさず詰め込んだ“働き方改革”への提言。どうか多くの人の手に渡る事を願っている。

 (大阪市淀川区、ひめじ・まさのり)



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