澪標 ―みおつくし―

青春真っ盛り、日々音楽、そして感動。

佐竹 昭彦
クラシック音楽バーココルーム店主
2020年6月1日

 コロナの影響により演奏会禁止の昨今、CD販売店は閉店、全国各地の音楽バーは営業すらできない。音楽を聴くのは独りぼっち。連日連夜パソンコンやスマホを見ながらでむなしい。私も休業が多くなったが「通常営業再開まで我慢するぞ」と決意できたのは、過去の素晴らしい体験があるからだ。マニアックな思い出話になるが青春のページをめくろう。

 25年前、中学2年生の頃、「名曲アルバム」という番組を見てグリーグ作曲の「朝」に感銘を受け、興奮し、別の世界にトリップした。毎日、頭の中に流れる壮大な音楽! 近所のCD屋でその曲のCDを買い、現在まで1万2千枚以上買ってきた。高校生の頃、よく通ったHMVのクラシックコーナーは他のCD売り場から一番奥の区画にあり、そこだけ扉付きの部屋として仕切られていた。

 小遣いを握りしめ、何時間でも店内のCDを眺めていた。毎週、棚の端から端までジャケットを眺めるときの快感。タワーレコードでは演奏者ごとにそろえられた「歴史的録音」専用の棚があり、普通の人が見たら「この少年、ハゲのじいさんのCDジャケットをずっと直視し、一人悦にいっているけど大丈夫か?」と思われたであろう(ハゲの巨匠演奏家が誰だかは想像に任せます)。

 その他にもCD屋を巡りに巡った。旅先では、リサイクル店でも古本屋でも釜ケ崎の露天でもエロビデオ屋でも、CDが売っていないか全て見た。デート中だろうが関係なしだ。暴力はないがDVはした気がする。ディスクバイオレンスだ。デート中、催し場に突如出現した中古CD販売! フリマ! ブックオフ! 毎回数分から数十分も待たされる女性の立場になれぬ私という人間! 謎のじいさんのCDにデート代よりも多額に払う異常な男!

 そうした因果が積もり積もって同志が集うバーを営み4周年の春を迎えた。お客さんも相当音楽好きだ。元トラック運転手の70代男性は車内でエアチェックした曲を、カセットテープが擦り切れるまで毎日12時間以上聴いていたそうだ。店内に並ぶ長谷川千秋著の『ベートーヴェン』を握りしめ「わしが若い頃、これ読んでびっくりしたわぁ」と「大公トリオ」を聴きながら喜んでくれた。

 新潟から来た中学校の音楽の先生は「この店で久しぶりにモルダウを聴き、初めて聴いたときの感動を思い出しました。今後の指導に生かします」と言ってくれた。

 楽しい思い出は山ほどある。コンサートでの感動、ワルツ堂、名曲堂、クラシック音楽喫茶バーでの時間。本当に楽しかった。時がたち、その多くは閉店。イベント中止となり、同好の士が集う場所がますます減っていく。今までたくさん楽しいものを受け取った。これからは受け取るだけでなく、与えられるようがんばりたい。受け取った分以上に楽しい出来事を発信する店にしたい。

 (大阪市西成区、さたけ・あきひこ)



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