澪標 ―みおつくし―

あなたの一歩が『福音』に… 忘れないで隣人の悔しさ

姫路まさのり
放送作家、ライター
2020年6月22日

 新刊『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。〜ソーシャルファームという希望』(新潮社)、おかげさまで多くの方にお読みいただき、ありがとうございます。約220ページでも書き切れない程で…。内容は具体的な働き方以上に、そのマインドを感じてもらうべく『人』に重きを置いて構成しました。

 「もうちょっと給料もらわれへんかな?」という障がい者の声を受け、仲間とともに夢のお店を実現させた「ほのぼの屋」西澤心さん。

 「外に出たい」1人の少女との“約束”から、年商2億円のクッキー工場を作り上げた「がんばカンパニー」中崎ひとみさん。

 福祉の一環と捉えられていた障がい者アートを、美術作品に引き上げ新しい地域福祉の形を創り出した「NO―MA」北岡賢剛さん。“地獄”と言い切る苦難の日々を超え、世界に知られる存在となった芸術家・古久保憲満さんとご家族。

 かけがいのない仲間1人の困り事を社会の問題とし、訴え続けてきた「AJU自立の家」山田昭義さん、そして盟友・中村力さん。

 本文の最後はこんな言葉で締めさせていただいた。

 『あなたから始めてみませんか? 何かを終わらせるために。

 あなたから終わらせてみませんか? 何かを始めるために。』

 出生前診断とダウン症、1964東京パラリンピック、障がい者の労働と自立…。この欄で訴えてきた事を総称すると、マイノリティー・社会啓発とくくられるかも知れない。便宜上申し上げるが、自分は障害がある当事者でなければ、その家族でもない。「それなのになぜ、ここまで熱心に…?」という質問を幾度も受けた。

 新型出生前診断で“不幸の対象”の様に報じられたダウン症のある女性が、朝起きるなり母親にこう問いかけた。『お母さん、私いらないって言われてるの? 生まれてこない方がよかったの?』

 子どもでも、孫でも、パートナーでも、愛する人間から同じ言葉を伝えられたら…。読者の皆さまも1分間でいいので、どうか真剣に想像してほしい。自分自身、娘に同じ言葉を言われたら…熟考の末に浮かんだのは、悲しさや怒りもさる事ながら、最も大きな感情は『悔しさ』だった。

 生まれてきた喜び、成長の実感、幼稚園や小学校への不安…妻ととも乗り越えてきた全てを否定された事が、膝をたたきつける程に悔しかった。

 自分には「大丈夫だよ」と言って、誰よりも力強く抱き締めるしかできないだろう。それでも心にポッカリと開いた穴は、決して埋まる事は無い。そんな理不尽な現実の連続に、悔しい思いを抱えている人が、あなたの隣にいるという現実を、これからも忘れないでほしい。

 『ダウン症って不幸ですか?』『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。』。2冊の本のタイトルは読者の皆さまへの問いかけ…。一人一人の力は微力だが、決して無力ではない。あなたの一歩が大海に一滴を加え、一隅を照らす『福音』になると信じている。問いへの答えとともに、理解と笑顔が広がる事を願って…。拝読に深謝。

 (大阪市淀川区、ひめじ・まさのり)



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