澪標 ―みおつくし―

年月の重み 〜商家に嫁いで〜

杉村 春美
杉村繊維工業株式会社・Fabrico・マネージャー 再織手織り教室講師
2020年8月18日

 「長男に嫁に行くん?それも両親がいて商売してる家やで。大変そう、ええん?」。結婚が決まった時、女友達に言われた言葉だ。特にその言葉を気にも留めず、主人とはお見合いで結婚した。

 織物業の旧家の長男に嫁いだため、義母からいろいろと教えられた。まずは工場内の仕事をひと通り習うようにと、従業員と共に織機、糸繰り、整経、繋(つな)ぎ、ミシン等の仕事をした。工場の掃除や周辺の草引きも嫁の役目。田舎のため、家の行事、特にお盆お彼岸、大みそかお正月は昔から続くしきたりがあり、3人の子育てに仕事もこなし覚えるのが大変だった。炊事も義母は説明だけで「台所狭いから頼んどくわ」と任され、休む間もなく一人台所で格闘した。経理も「お金の事は家のものがやるべきだ」との義母の考えのもと「一円たりとも間違えへんようにな」とみっちり仕込まれた。義母の口癖は「働かざるもの食うべからず」で「春美ちゃん、商売ってものはな、死に病と同じ程しんどいもんなんやで」とたたき込まれた。

 子どもが少し手を離れた頃、織物資料館で地場産業の『再織』という手織りを習い、その後教室の指導を手伝う事になった。モール糸は柄が出るように作られ、同じ幅で織り進んでいくと色鮮やかな模様が出てくる。吸水性に優れ手触りがよく、綿なので洗濯もでき、肌にも優しい。柄が鮮やかで優雅さも兼ね備えている。「これが手織り?こんな複雑な柄を手織りでできるん?」とみんなびっくりする。

 小さいハンカチならば1枚2、3時間でできる。生徒さんは、エプロンやかばん等を自分用に、タオル、スタイ等をお孫さんや生まれてくる赤ちゃんのためにと、喜ぶ顔を思い浮かべながら次々と織っている。私自身も再織を織っていると心が安らぐ。無心になれる。そんな時間が好きだ。気がつけば20年、「地場産業の発展につながれば」と手織り講師も続けている。

 私は商家の長男に嫁いで厳しい義母のもと、つらくてもう耐えられないと思った時もあったけれど、親子で家と商売を守り共に生活が続いている。一緒に関わり過ごしたからこそ、年月をかけて育んできた目に見えぬ絆がある。寄り添い、続けるという事は、何かが育って残っていく。最近はその厳しい上司兼義母も、高齢になり完全リタイアし足腰が弱り始めた。「商売頼んどくわよ。私は今はあんたが頼りやねん」と目を細くしてつぶやく。私も「任しといて。私なりに頑張るよ」と2人の好物の薄皮まんじゅうを食べながら笑い合っている。

 こうして世代は受け継がれていくのだろう。今年に入り先が見えないコロナ禍で厳しい状況が続く中、うれしい出来事もあった。弊社のブランド『Fabrico(ファブリコ)』のイエティのぬいぐるみをプレゼントにもらったと橋本環奈ちゃんが写真入りでツィッターに。そしてインスタライブにも。問い合わせが来始めた。山あり谷あり。これからが正念場だ。

 最後になりましたが一年間、私の拙いコラムにお付き合いいただきありがとうございました。このような貴重な機会をいただき、心より感謝しております。

 (和歌山県橋本市、すぎむら・はるみ)



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