ある暗い空間を独り彷徨(さまよ)い歩く。目を凝らすと、遠くの方で微かに消え入りそうにともる一筋の光。依然彷徨いながらも、それを決して見失わないように道標(しるべ)にしながら、やがて、次第にその光の綱を手繰り寄せるように旅路を進める。ついには、トンネルのような暗がりを抜け、一面白の世界に包まれる。
そのような、夢に似た、「魂の原風景」とも呼ぶべき情景が、幼少の頃から私の頭の中には住んでおりました。
そして、この原風景は私の創作に於ける世界観やテーマへとつながっています。それはつまり、生命の誕生のお話であり、生と死をとめどなく流れ巡る時間であり、それらの美しさのことです。
当コラムでは、私の作曲作品の中から特にこれらのテーマに深い関わりを持つ作品を毎回1曲取り上げて、その物語を少しばかりひもとくことで読者の皆さんと「音楽=生命=時間」の一体性とその美しさを共有できればと思います。
第1回の今回は、《暁闇の宴》(2014年作曲、全日本吹奏楽連盟より出版)。「あかつきやみのうたげ」と読みます。第7回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位を受賞、2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲Vとして、日本全国で多くの吹奏楽団に演奏していただきました。
暁闇。全てを飲み込むような深い暗闇の世界にやがて訪れる、薄明を帯びた夜明け前。光と闇が滲(にじ)み溶け出し、流れ始めるグラデーション。夜明け前に見るそれら時の流れが生命の流れだと気付いた時、生きていることで得る全ての実感が、痛みや狂気さえ携えて舞い踊り、生命の喜びを謳歌(おうか)します。
《暁闇の宴》はそのような美を目指して作曲しました。(ここでは音楽の内容を説明することはしません。各団体の演奏が収録されたCDも数多く販売されておりますし、YouTube等でもさまざまな演奏がお聴きになれますので、もしよろしければお聴きいただけますと幸いです。)
冒頭の「魂の原風景」のように、私の中では光と闇は常に同じ場所に共存しています。この原風景を時折眺めていた幼少期や学生時代は、まず自分が闇の中にいて、どこからか淡く差し込む光の行方を探すという構図でしたが、自覚的に分析していくうちに、そのような並列的二元的な捉え方ではなく、まさに暁闇のように光と闇、陰陽が一体となって溶け出しながら絶えず円環的に変容する様が原風景の本質であり、私が感動する美の起源なのだと考えるに至りました。
社会はいつの時代も即物的な価値とは切り離せませんが、このコロナ禍の時代に突入し、人々は個人としても世界の住人としても再度価値観の見直しを迫られています。社会で起きたさまざまな出来事によって心の内に傷を負い、穴が開き、痛みや悲しみを覚える方々も少なくないことでしょう。一方で、それらは気付き方によっては生きる実感として捉え直すことができ、瞬間瞬間に内側で起こる生命現象を喜びに昇華することができれば、心の陰陽は美しいバランスで一体となり、細胞と共に生き生きと変容しながら音楽のように内側の時間を巡るのだと思います。
皆さんの心の内には、どのような「暁闇の宴」が繰り広げられていますか?
(大阪市天王寺区、パク・スヒョン)
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