澪標 ―みおつくし―

青春とは

西尾 光子
演劇・朗読指導
2020年11月10日

 長年、東京で演劇に携わっていた私は、25年前、出身地の大阪に拠点を移した。

 間もなくして、昔の芝居仲間を通して、演劇サークルの指導を頼まれた。3カ月(6回)の体験教室に参加して、終了後にサークルを立ち上げたそうだ。男女合わせて17人、平均年齢50歳。同好会ならばと、私は軽い気持ちで引き受けた。

 練習初日、部屋のドアを開けると「よろしくお願いします」と、広い室内から張りのある声で迎えられた。気迫に押された私は、時間の無駄を省いてさっそくレッスンに入った。発声・発音から始める。全員机から離れて立ってもらい、個人指導の形で進める。

 まず、正しい腹式呼吸から。おなかに軽く手を当てて、手を押し出すようにゆっくり息を吸い込む。そのまま少し止め、遠くに声を出しながら息を吐ききる。そしてすぐに息を吸ってへこませたおなかを戻すと、自然に腹式呼吸になる。

 発音に移る。五十音は口で形を作るのではなく、表情筋を意識することが大切だ。「ア」は、顔全体の筋肉をやや上外に引くときれいなアの形になる。「イ」は、目尻から口への筋肉を目尻の方へ。口角がきれいに上がっているのを確認。「ウ」は、頬から口へ寄せる。「エ」は、耳へ引く。「オ」は、ウより軽く頬から口へ。ウとオは、口を突き出さないこと。

 「怒っている?」「暗い」などと、自分の気持ちを誤解されることはないだろうか。それは、表情が小さいことで、心の喜怒哀楽がそのまま顔に出ていないのだ。顔の筋肉を鍛えることで、心と外見が一致する。

 最後に、朗読・演技の表現について。文章を頭の中で映像にし、それを見ながら感覚を働かせて言葉にする。行間や……も読み取ること。また、画像として記憶に残るため、台本などを覚える負担が減らせる。

 発音と発声は、毎日続けるように伝えて終わりにした。すると、終わってからも1人、2人と窓ガラスを鏡にして、表情筋や腹式呼吸のおさらいを始めた。

 3カ月たった頃には、みんなの表情も変わってきた。歯磨きの後で顔の筋肉を動かしている人、「外郎売り」のせりふを台所に貼って、口の運動をしている人。それぞれに自宅でも楽しんでいる様子。また、70歳の生徒は「おばあちゃん、えらい若なったし、声も聞きやすなった」と、孫に言われることが一番の喜びだそうだ。

 レッスン場は活気に満ちている。私はサムエル・ウルマンの詩「青春」を思い出した。

 −青春とは人生のある期間ではなく、心の持ち方を言う。薔薇(バラ)の面差し、紅の唇、しなやかな肢体ではなく、たくましい意志、ゆたかな想像力、炎(も)える情熱をさす。(中略)頭(こうべ)を高く上げ希望の波をとらえる限り、80歳であろうと人は老いない。80歳であろうと人は青春にして已(や)む。

(大阪市中央区)
 【プロフィル】1944年生まれ。新演劇人クラブマールイ(主催・故金子信雄)研究生を経て舞台に出演し、作・演出を手掛けた作品も多数。タレントの新人発掘、養成に携わって人気俳優や人気歌手も輩出した。1985年に国際文化交流協会に参与として加わり、日本のアーティストを海外に紹介、演劇、コンサートなどを企画・構成。現在はフリーとして作・演出を手掛け、演技・朗読指導などを行う。


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