澪標 ―みおつくし―

人を支えるための自転車文化を

中原美智子
株式会社ふたごじてんしゃ代表取締役/社会福祉士
2021年9月20日

 今回が最後のコラムになります。私は何を伝えたかったのかを、前回の原稿を書き終えてからずっと考えていました。今回のお話をいただいたとき、私が目標にしたのは「自転車に乗せられる6歳未満の制限を、送迎が必要な未就学児にすること」でした。それが、今年6月に全国どこでも小学校に入るまでは送迎ができるようになりました。こんなにも早く制度が整うとは夢にも思わず、うれしい反面、次の目標に進んでいいのだろうかというためらいもありました。でも、次へ進めと応援してくれているのだと思うのです。

 今の私が最終地点に掲げたのは、健常な大人ひとりだけが乗る自転車ではなく、モノを運ぶ自転車でもなく、人が人を支えるための自転車の文化を、たくさんの人たちの賛同と協力を得ながらつくっていくということです。ふたごじてんしゃの活動を通じて気になってしまった人たちのことを、忘れてしまうことがどうしてもできません。

 街にはやむを得ず道路交通法に違反した乗り方をしている人たちがいます。年老いたお母さんが知的障害のある息子を自転車の後ろに乗せて歯医者さんに通っています。お母さんよりも大きな息子を後ろに乗せて走るというのは、腕力脚力に加え、バランスを取り続けるための気力が必要でしょう。そんな大変な苦労を、あの人はいつまで続けなければならないのでしょう。

 後ろの子どもが体幹を保てずに体が左右に揺れれば、そのはずみで自転車もフラフラとハンドルを取られます。それを必死に支えるお母さんがいます。

 子育てと仕事の両立で今日はお父さんが学童のお迎え。腕力のあるパパだからできるのでしょう。2輪自転車に保育園と小学生の子ども3人を乗せながら走る4人乗りの自転車が、冬で暗くなるのが早くなった家路を急いでいます。

 朝、学校へ行くのをしぶって道に寝転がって泣き叫ぶあの子を、周囲の冷ややかな視線に耐えながら、お母さんはジッと横で待ち続けています。もし自転車で送迎できれば、この耐え続ける時間は無くなるのではないでしょうか。

 このような家庭は実際に存在します。少子化の中で産めよ育てよという割には、3人以上の子どがいる家庭の簡易な送迎手段はなく、全ては自己責任で工夫するしかない状況なのです。共働きの家庭が半数を超え、家事育児をこなさなければならない中で、送迎で疲弊してしまうのはどうしたものでしょう。だからこそ、生活に必要な簡易な移動手段として、少しでもサポートできる自転車をつくることはできないのだろうかと思ってしまうのです。

 この先は、ふたごじてんしゃをつくる以上の困難があるでしょう。複数人の幼児の乗車や、小学生以上の人を自転車で送迎できるよう年齢制限撤廃や車体寸法の制限見直し、自転車走行空間の改善など、クリアすべき問題課題は現時点でもたくさん見えています。

 しかし、私はこれを仕事として続けていくと決めているのです。ふたごじてんしゃの活動で、今は多くの人たちとつながりました。必ず何か良いアイデアや切り口が見つかるはず。だって、人は誰かのために力を尽くしたい生き物だから。誰もが今、生きて存在していることを喜び合い、目の前の命の誕生を当たり前に喜べる社会を目指して、この困難に立ち向かってくれる仲間の輪を広げていきたいのです。

 (兵庫県尼崎市、なかはら・みちこ)



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