街と人 なにわの夢

 大都市・大阪の街は時代とともに変化してきたが、そこには人々の暮らしが息づいてきた。今後、街の姿はさらに大きく変貌していくことが予想される。目に見える変化だけでなく、暮らしを取り巻く環境もまた同じだ。街と人に焦点を当て、令和時代の変わりゆく大阪を見つめる。

第3部「多様性」(4)外国籍と投票権

2020年7月27日
生野コリアタウンを舞台にフィールドワーク、民族楽器演奏やキムチ作りの体験学習など多彩なプログラムを実施するコリアNGOセンターの郭代表理事=大阪市生野区

 日本最大の在日コリアンの集住地域、大阪市生野区を拠点に在日コリアンの人権団体「コリアNGOセンター」は活動している。「人を大切にする多様性の意味が、インバウンド(訪日外国人客)を増やすことなど、経済視点の多様性に変わってきている」と懸念するのは、代表理事を務める郭辰雄(カクチヌン)さんだ。

 今秋に実施が予定されている「大阪都構想」の住民投票で、永住権など一定の条件を満たす外国籍住民の投票権を認めるように求めている市民団体の呼び掛け人でもある。

■二つの名前

 1966年に大阪で生まれた郭さんは、在日コリアン3世。実家は座椅子や籐(とう)製品を販売していた。当時の在日に対する差別は激しく、名前は「石山」という通称名で暮らしていた。両親からは就職差別を念頭に「手に職をつけないと食べていけない」と言われ、友達には無意識のうちに在日だということを知られないようにしていた。

 転機は高校2年の時。教育実習に来た男性が、教室で自ら在日であることを明かした。周囲にそんな人はおらず、郭さんは困惑する。友達との間で男性が話題になった時、「どう振る舞っていいか分からない」ためだ。クラスメートの反応は予想に反し、「あの先生面白いな」「いろいろ話を聞いてみたい」といった好意的なものがほとんどだったという。

 郭さんは、男性に自分も在日であることを伝える。生まれて初めてのことだった。男性は自身の生い立ち、在日の歴史や暮らしなどさまざまなことを教えてくれ、大学入学後も在日の学生たちを紹介してくれた。

 ただ、在日のことを勉強すればするほど、自分が2人いるような違和感、二つの名前のある息苦しさが増してくる。「俺はこういう人間やと誰に対しても言えるようにしたい」。郭さんは大学1年の秋、本名で生きることを決め、学校に届け出る。

■人を大切に

 「俺だって大阪市民や」−。5年前の「大阪都構想」の住民投票で、外国籍の住民が会員制交流サイト(SNS)に載せた言葉だ。

 同市阿倍野区の小野潤子さんが「同じ人間なのに、大阪市民であることを否定されている。こんなにつらく悲しく、悔しい気持ちは二度と味わいたくない。日本人こそ当事者意識を持つべきだ」との思いで発起人となり、設立したのが市民団体「みんなで住民投票!(みんじゅう)」。郭さんは劇作家の平田オリザさんらとともに呼び掛け人となり、約3万2千筆の署名を集め、国会にも働き掛けた。

 「多様な人たちが大阪に集まり、活力になる一方で、そういう人たちの人権も大切。国籍や宗教、文化などの『違い』を認め尊重し合いながら、互いに豊かさを築けるように」と郭さんは願っている。

 (おわり)

 ◇この企画は加星宙麿、山本圭介、藤木俊治、木下功が担当しました。

ミニクリップ
 都構想の住民投票 「大阪都構想」の住民投票で、投票できるのは大阪市内の有権者約223万人。対象は3カ月以上市内に住む18歳以上となり、大阪市の人口の約5%を占める外国籍の市民は投票できない。大都市法と大都市令が公職選挙法を準用しているため。住民投票には法律と条例によるものがあり、条例では外国籍住民の投票を認めてきた例もある。


サイト内検索