お宝ウオッチング〜文化財をたずねて〜

 守られてきたのには理由(わけ)がある。何十年、何百年、千年の時を超え、今もそこにある文化財は、私たちに歴史の重みとこれからの道を照らしてくれるように感じる。だからこそ、改めて学んでいこうと思う。

綿業会館 (大阪市中央区備後町)

2020年4月16日

“大大阪時代”の誇り

重厚な石造りの外観が、今も街に存在感を示す綿業会館
天井まで届く奥の泰山タイルのタペストリーが圧巻の談話室。ドラマなどの撮影でも度々使用され、建物の中でもひときわ荘厳な雰囲気の一室
岡常夫氏の銅像が鎮座するホール。イタリアルネサンス様式でまとめられている

 守られてきたのには理由(わけ)がある。何十年、何百年、千年の時を超え、今もそこにある文化財は、私たちに歴史の重みとこれからの道を照らしてくれるように感じる。だからこそ、改めて学んでいこうと思う。第1回は都会に息づく大大阪の誇り、近代美術建築の傑作「綿業会館」(大阪市中央区)。

 綿業会館が建設されたのは、大阪が近代産業都市として発展し、人口でも東京を抜いた“大大阪時代”の1931(昭和6)年。繁栄の中核となった綿紡績業界による日本綿業倶楽部の施設として誕生した。費用は、竣工(しゅんこう)の3年前に死去した東洋紡績専務取締役の岡常夫氏の遺言による寄付金100万円と、関係業界からの50万円の計150万円。現在の75億円に相当し、設計は建築家・渡辺節氏が担当した。

◆伊、英、米、仏様式

 建物は地下1階、地上7階建て。正面玄関を抜けたホールの中央には岡常夫氏の銅像が鎮座する。イタリアルネサンス様式で、正面のシンメトリーに伸びた階段から3階の談話室、特別室、会議室につながる。

 建物の特徴は、各部屋で様式が違うこと。リットン調査団をはじめ、海外の賓客に好みの部屋を使ってもらう配慮だという。

 例えば、1階の会員食堂の天井は米国風のミューラルデコレーション、獣足で曲線調の家具で統一された特別室は、英国式のクイーン・アン・スタイル、「鏡の間」と呼ばれる会議室はナポレオン帝政時代のフランスで流行したアンピールスタイルだ。

 談話室は建物内で最も豪華な一室。英国ルネサンス初期のジャコビアン様式の吹き抜けの天井で、壁面にしつらえた京都泉涌寺付近の窯場で焼いた泰山タイル約千枚を使ったタペストリーが圧巻だ。

◆先駆的な設備

 モダンな様式ばかりが先走ったが、綿業会館の真骨頂は設備にある。当時、欧米で広まっていた冷暖房の必要性を予見し、ダクトを壁面内に内蔵させ、地下室に冷暖房設備のスペースを残した、空調は現在も現役で稼働する。

 さらに、各部屋の窓は鋼鉄ワイヤ入り耐火ガラスを使用。そのため、大阪空襲の際も被害はガラス1枚が割れる程度で、ほぼ無傷だったという。

 「貴重な部屋や立派な家具を見てもらいたい」と、管理する日本綿業倶楽部の品川和三総務部長。激動の昭和、平成を経て、時は令和。モダンで重厚な建物は、オフィスビルやマンションが立ち並ぶ街に今なお品格を与えている。

【綿業会館】1931年竣工。2003年に国の重要文化財、07年に近代化産業遺産に指定。館内見学(有料)は毎月第4土曜日に開催だが、現在は休止中。大阪市中央区備後町2丁目5番8号。大阪メトロ御堂筋線本町駅から徒歩5分。


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