大人の社会見学

 大人にしか味わえない、大人だからこそ学びたい施設を行く−。それを「大人の社会見学」と呼ぶ。食品工場や伝統産業資料室、工業遺産など関西有数のスポットを写真に収めながら、地域との密着や歴史、魅力を取り上げていく。

和歌山県湯浅町

2019年6月20日

醤油発祥の地に伝統を知る

醤油の醸造など商工業に由来する町家や土蔵をはじめとする、江戸〜明治にかけての町並みが残る「湯浅町湯浅伝統的建造物群保存地区」
1841年創業の老舗「角長」。木造の仕込み蔵には34の木桶おけがあり、素材の処理から熟成まで1年半〜3年半かけて職人の手作業で仕上げていく
新しい観光拠点「美味(うま)いもん蔵」では、湯浅の港で水揚げされたシラスをふんだんに使ったしらす丼が味わえる

 「醤油(しょうゆ)発祥の地」として観光PRを展開する和歌山県湯浅町。中国への留学から帰国した鎌倉時代の禅僧が醤油の誕生に貢献した「最初の一滴」を巡るストーリーは、近年、文化庁の「日本遺産」にも認定された。重厚な瓦ぶき屋根と繊細な格子が目を引く町家、白壁の土蔵たちがつくる町並みは国の「重要伝統的建造物群保存地区」の指定を受け、大事に守り育てられている。醤油を巡る歴史と伝統を受け継ぐ小さな町を歩いた。

 梅雨も近い6月上旬、JR天王寺駅から約1時間半で湯浅町へ到着。湯浅駅から北西に10分余り進むと、湯浅湾へ注ぐ山田川に沿って、土倉や町家が並ぶ約6・3ヘクタールの空間が東西に広がっている。商工業で栄えたまちは、当時の様子をありのままに伝えている。

◇最初の一滴

 和食を語る上で外せない調味料が醤油。起源は、約750年前の鎌倉時代にまでさかのぼる。

 ルーツとされているのは、中国・杭州の径山寺(きんざんじ)で学んだ高野山の禅僧、法燈(ほっとう)国師・覚心が伝えた径山寺(金山寺)みそ。みそ作りの工程で、たるの中に染み出した汁を採取し、調味料として発展させたのが“最初の一滴”と呼ばれるゆえんである。

 以来、水質の良さが醸造を育んできた。紀州徳川家の手厚い保護もあり、最盛期だった江戸後期の文化年間(1804〜18年)には、世帯数の1割に当たる92軒が醤油を商う代表的な産業となった。

◇宿る蔵の力

 創業は1841(天保12)年。今なお伝統技法で醸造を続ける最古参が「角長」だ。角長の7代目、製造部長の加納恒儀さん(42)が、大豆や小麦、塩といった材料処理から醸成までが行われる蔵の内部を特別に案内してくれた。

 最低限の明かりがともる薄暗い中には「蔵の力が宿っている」という。天保年間から伝わる天井や壁、床には、おいしい醤油作りに不可欠な酵母が「すみ着いている」。気温が上昇するにつれて菌が木桶(おけ)に降り注ぎ、こうじが活発に動きだす特別な環境に置かれているのだ。

◇関心高い外国人

 人口約1万2千人の町には、その40倍を超える年間50万人以上の交流人口がある。さらに醤油は、「和食」がユネスコ世界文化遺産にも登録されたこともあり、近年は外国人観光客(インバウンド)の関心も高いという。

 町では行政と経済団体、地域がタッグを組んで「観光立町」に取り組んでおり、「まだまだ国内旅行の需要に目を向けた上で、インバウンドに目を向けていくべきだ」と町商工会事務局長の谷中敬治さん(64)。「関係者がよく話し合いをしながら、最大公約数を持って取り組んできたのは湯浅の良さではないか」と地元の力に手応えを示す。

 重要伝統的建造物群保存地区 城下町や宿場町、門前町など市町村が決定する伝統的建造物群保存地区のうち、文化財保護法に基づいて、特に価値が高いとして国が選定する地区。市町村による保存、活用の取り組みに対し、文化庁や都道府県教委が指導、助言を行い、修理、修景事業に対して税制優遇措置などを設けている。文化庁によると、2018年8月現在で、金沢市東山ひがし(石川)や南丹市美山町北(京都)など98市町村に118地区あり、約2万8千件を特定、保護している。


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