大人の社会見学

 大人にしか味わえない、大人だからこそ学びたい施設を行く−。それを「大人の社会見学」と呼ぶ。食品工場や伝統産業資料室、工業遺産など関西有数のスポットを写真に収めながら、地域との密着や歴史、魅力を取り上げていく。

揖保乃糸資料館「そうめんの里」 (兵庫県たつの市)

2019年8月29日

「手延べ」の温かみ、食卓に

往時のそうめん作りを再現した展示室。古い道具を使い、ひとかたまりの生地から1本の細い“糸”を紡いでいく一端を垣間見ることができる
職人による箸さばきの実演コーナー。スタッフの手ほどきで、小分けされていく過程を体験することもできる
原材料や麺の細さ、作られた時期によって等級が定められる揖保乃糸。館内ではさまざまな等級の商品をはじめ、しょうゆや地酒など播州の特産品が手に入る

 「そうめん、やっぱり、いぼのいと〜」−

 テレビCMで流れる軽快なフレーズは、あまりにも有名だ。元キャンディーズの田中好子さんや女優の京野ことみさんがキャラクターを務めたことでも知られ、一大産地として全国的にも知られている。

 機械化が進む一方で、人の手を介した「手延べ」の温かみは、時代が変わった今も変わらぬおいしさを食卓に届けている。冷水に浸してつるつると箸を滑らせる冷やそうめんがまだまだ恋しい季節。ブランドを広報する資料館「そうめんの里」を訪れた。

 大阪市内からJR山陽本線、姫新線を乗り継いで1時間半余り。住宅地を抜けると白壁のひときわ大きな施設が目に入ってくる。お盆を過ぎてもまだまだ暑い日が続いており、館内は見学者や土産を買い求める人たちでにぎわっていた。

◇遣唐使伝えた菓子がルーツ

 遣唐使が伝えた菓子がルーツとされるそうめんの歴史は古く、今から600年前、室町時代の古文書には既に「サウメン」の記述が残る。兵庫県南西部の西播磨地域には、播州平野の小麦や揖保川の水、赤穂の塩と、そうめん作りに適した土壌があり、1887(明治20)年に組合が組織。現在、約420軒から検査に合格した製品だけが「揖保乃糸」を名乗ることができる。

 施設を運営する、兵庫県手延素麺協同組合総務部の藤木裕子さんが製品に関する情報が凝縮された館内を案内してくれた。

◇手延べの特性

 製造は10月から4月にかけた寒季に限定され、製法には大きく分けて三つの特徴があるという。

 一つは、麺同士がくっつきにくいよう、小麦粉と相性の良い食用の植物油、綿実油を表面に塗る点。二つ目に、ねじり合わせの「縒(よ)りを掛ける」作業でコシを強くする点。そして、三つ目は36時間かけて熟成を重ねる点。小麦粉に含まれるタンパク質の一種、グルテンを寝かせることで活性化させ、細く、長く伸ばしていく。これがつるっとした食感とゆで伸びしにくい手延べの特性を生み出す。

◇生の麺に触れる

 工程の実演、体験コーナーでは、生の麺に触れることができ、「めっちゃ弾力がある。弦みたい」と口をそろえたのは広島市の美容師、中野隼人さん(31)、絵理さん(26)夫妻。そうめんは「夏でも冬でも、食欲がなくてもさらっと食べられる。大好きですね」と満足そうだった。

 機械化が進んだ今も随所で人の手が不可欠。熟成の進み具合や天候を見ながらの作業は、職人ならではの経験が生きるところだ。

 「ゆでて冷水で洗う必要がある商品だが、一手間をかけることでおいしくなる食べ物」という藤木さん。「見て、触って、楽しんでいただける施設を目指す」と今後を展望している。

揖保乃糸 兵庫県手延素麺協同組合によると、奈良時代に中国から伝わった菓子「索餅(さくべい)」がそうめんのルーツで、そうめん作りは鎌倉時代中頃に京都で始まり、播州にも広まったという。温暖な瀬戸内気候や塩、小麦、水の条件が製造に適していたとされる。小麦粉の種類や麺の細さ、製造時期の違いで等級が定められ、最高級の「三神」を作ることができるのは組合でも数軒しかない。商品名は西播磨を流れる揖保川に由来。資料館「そうめんの里」は兵庫県たつの市神岡町奥村56。


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