大人の社会見学

 大人にしか味わえない、大人だからこそ学びたい施設を行く−。それを「大人の社会見学」と呼ぶ。食品工場や伝統産業資料室、工業遺産など関西有数のスポットを写真に収めながら、地域との密着や歴史、魅力を取り上げていく。

月桂冠大倉記念館 (京都市伏見区)

2019年9月19日

伝統が息づく酒造り 風土が生む風味 歴史にも思いはせ

記念館と「内蔵」の間にある中庭。正面の建物はかつて杜氏が住み込んだ宿舎
6千点を超える有形民俗文化財の中から代表的な酒造用具を並べた展示室。歌い継がれてきた「酒造り唄」が雰囲気を醸し出している
利き酒では、「レトロボトル吟醸酒」「玉の泉大吟醸」「プラムワイン」の3種が味わえる

 灘の「男酒」、伏見の「女酒」−。これは、酒造りの手法や利用する水の成分が生む性質の違いを表現したものだが、まさに言い得て妙だ。関西を代表する酒どころで、全国にその名がとどろく京都・伏見を代表する清酒大手、月桂冠。伝統的な酒造りの一端に触れようと、同社が運営する「大倉記念館」を訪ねた。

◇女酒のルーツ

 伏見の酒は、琵琶湖の水量に匹敵するといわれる豊富な地下水脈に支えられている。伏見はその集積地で、かつて「伏水」を「ふしみ」と読んだルーツがあり、「京の底冷え」と呼ばれる盆地独特の寒さも酒造りに適した風土といえる。

 月桂冠では、今でも仕込み水に地下50メートルからくみ上げる良質の伏流水を利用。ミネラル成分を適度に含み、発酵に比較的長い時間をかけることから酸が少なく、甘口できめの細かい風味を生み出してきた。一方で、海に近い灘の酒は、ミネラル分が豊富な硬水を用いるため、発酵に要する時間は短く、辛口タイプの酒を生んだ。ここに「女酒」「男酒」の由来がある。

◇知恵と経験

 所蔵する6千点超の酒造用具は、市の有形民俗文化財にも指定されており、代表的なものが展示室に並ぶ。往事は丹波や越前、南部(岩手)など各地から六流派の杜氏(とうじ)が集まり、知恵と経験を持ち寄った。用具にもそれぞれの特徴が色濃く出ており、甑(こしき)の結び目一つにもそれが象徴されているのだという。

 ミニプラント「酒香房」では、もろみが発酵する過程も学べる。案内役の西岡成一郎館長(55)は「こうじ菌と酵母が、米をいかにおいしい酒に変えてくれるか。人間はそれをお手伝いするのであって、機械化が進んでも基本は今も変わらない」としみじみ話す。

 試飲コーナーでは、3種類の酒が楽しむことができる。夫が転勤族という京都市の幸畑裕美さん(34)はママ友同士で訪れ、「土地によってお酒も違うのが面白い」と満足そうだった。

◇新撰組も月桂冠

 近くには幕末の志士、坂本龍馬が急襲された「寺田屋事件」の遺構や、鳥羽伏見の戦いの舞台となった幕府、薩摩両軍の陣営跡などがあり、歴史の転換点にも思いをはせることができる。

 新撰組が布陣した旧跡からは銘入りのとっくりも見つかっており、「新撰組も月桂冠の酒を飲んでくれていたのかな」(西岡館長)とロマンは尽きない。

 周辺は石畳が整備され、伏見城の外堀に当たる濠(ほり)川は白壁の酒蔵や柳並木が美しく、十石船に乗って散策するのも楽しい。酒造の街が醸す風情を味わうには1日では足りなさそうだ。

【月桂冠】 1637年、初代・大倉治右衛門が城下町だった京都・伏見で創業した。「月桂冠」の社名は、勝利と栄光のシンボルであり、「業界のナンバーワンを目指す」との意で命名し、1905年に商標登録。明治時代は防腐剤抜きの瓶詰めを開発するなど斬新なアイデアを世に送り出してきた。全国新酒鑑評会では、出品した同社の4蔵が3年連続でそろって金賞を受賞中。
 大倉記念館は、午前9時半〜午後4時半。入館料400円(中高生は100円)。京都市伏見区南浜町247。問い合わせは電話075(623)2056。


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