大人の社会見学

 大人にしか味わえない、大人だからこそ学びたい施設を行く−。それを「大人の社会見学」と呼ぶ。食品工場や伝統産業資料室、工業遺産など関西有数のスポットを写真に収めながら、地域との密着や歴史、魅力を取り上げていく。

紀淡海峡・友ケ島 (和歌山市)

2020年3月19日

国防の遺構「ラピュタの島」

赤れんが造りが目を引く第3砲台跡の弾薬支庫。島内最大規模の砲台で、「ラピュタ」をイメージさせる象徴的な遺構でもある
沖ノ島の西端にある友ケ島灯台。明治の初めに建てられた洋式灯台で、経済産業省の「近代化産業遺産」にもなっている
島西部の第3砲台、島中央の第4砲台に配備していた8インチ砲の弾丸。大戦後、再利用されることのないよう大砲は破壊された

 大阪湾の南、紀伊半島と淡路島に挟まれた紀淡海峡に浮かぶ無人島、友ケ島。明治時代、旧陸軍が設置した砲台群が当時の国防の姿を伝えている。今は遺構と化したが、近年は滅亡帝国の要塞(ようさい)がモチーフとして登場するアニメになぞらえ、苔(こけ)むす廃墟(はいきょ)が「ラピュタの島」と呼ばれ、多くの観光客を集めている。兵(つわもの)どもが夢の跡−。いざ、無人島へ。

 大阪・難波から急行列車とローカル線を乗り継いで1時間半余り。陽気に包まれた3月中旬、和歌山市西端の加太港から定期便に乗り込んだ。

◇稼働せず終戦

 島には照葉樹林が青々と茂り、昆虫や磯の生き物が暮らす自然の宝庫。起伏に富んだハイキングコースも整備されている。風光明媚(めいび)な海岸線が目を引く一方、かつては軍事拠点として利用された経緯がある。

 黒船が来港した幕末、紀州藩は大阪湾へ侵入する外国船を監視するため「友ケ島奉行」を設置。政府が国土防衛の近代化を急いだ明治20年代には、淡路島から紀伊半島の加太地区にかけて25カ所で砲台を設置し、「由良要塞」と呼んで国防に当たってきた。

 海峡にさしかかった船舶を待ち伏せするため、島の5カ所にフランス式砲台を設けたが、いずれも稼働することなく終戦を迎えた。大砲は終戦後に破壊され、赤れんが造りの建物が当時の面影を残している。

◇インスタ映え

 コバルトブルーの海に囲まれたかつての要塞は風化が進み、苔むすさまはまるで「ラピュタ」の一シーンのようだ。雰囲気を醸し出す目の前の遺跡に「来た、来た、来た!」と身を乗り出す若いカップル。来訪者には若者も多く、アニメの舞台を彷彿(ほうふつ)とさせる神秘的な光景がコスプレーヤーの人気を集めているという。

 富山県から来阪した会社員女性は、出張中の休暇を利用。「“ラピュタの島”と聞いていたが、北陸にはない観光地で新鮮だった」と満足そうに話した。

 島を管理する和歌山市によると、2017年度の観光客数は約8万6千人で、13年度の2・8倍に上る。市は近年の観光需要を背景に官民でスマートフォン向けの専用アプリを開発。ポイントに差し掛かると自動音声が聞ける仕組みを構築するなど注力してきた。

 市観光課の担当者は「無人島がある自治体はなかなかない。“インスタ映え”する風景が口コミで広がったのではないか。若い人も親しみやすいアプリを活用し、歴史を感じてもらいたい」と展望している。

【友ケ島】 紀淡海峡に浮かぶ沖ノ島、地ノ島、虎島、神島の4島の総称。このうち、最大面積の沖ノ島には、旧陸軍の軍事施設だった五つの砲台跡がある。大阪城や姫路城、五稜郭と同じ専守防衛の施設とされ、弾丸や弾薬庫を含めた大半の施設が地下化されているのが特徴だ。島内の友ケ島灯台は、東経135度の日本標準時子午線が通る日本最南端の地でもある。加太港からは「友ケ島汽船」の定期便で約20分。水曜は定期運休で、悪天候による運休もしばしばあるので注意を。


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