大人の社会見学

 大人にしか味わえない、大人だからこそ学びたい施設を行く−。それを「大人の社会見学」と呼ぶ。食品工場や伝統産業資料室、工業遺産など関西有数のスポットを写真に収めながら、地域との密着や歴史、魅力を取り上げていく。

守り育てられた荘園「日根荘」 (泉佐野市)

2021年3月18日

地域に息づく文化遺産

泉佐野市内唯一の国宝、慈眼院多宝塔。鎌倉時代に建立され、その姿を今にとどめている
日根神社と慈眼院の間を流れる井川水路。かつては段丘に広がる農地を抜ける一大計画だった
干ばつに悩まされた大木地区の住民たちが雨乞いの儀式を執り行った火走神社。儀式は「ホタキ神事」として今に伝わる

 関西の玄関口、関西国際空港がある泉佐野市。約800年前、この地では京都の有力貴族、九条氏が治める荘園が成立し、当時を受け継ぐ寺社や農村風景が大切に守り育てられてきた。この荘園「日根荘」にまつわるエピソードが、文化庁の「日本遺産」に認定された。認定のテーマは「旅引付と二枚の絵図が伝えるまち〜中世日根荘の風景〜」。地域に息づく文化遺産を巡り、地元の取り組みを探った。

 中世から続く営みを今に継承する風景は、どのようにつくられてきたのか。日本遺産認定のテーマになっているのが、鎌倉時代に日根野地区を開発するため描かれた2枚の絵図だ。

◇旅引付の原風景

 鎌倉初期の1234年、五摂家の一つ、九条氏が治める「日根荘」と呼ばれる荘園が成立した。五摂家は代々摂政や関白を歴任した上級貴族で、九条氏の荘園は泉佐野市全域に及んでいたとされている。

 16世紀の初め、当主の九条政基が著した日記「政基公旅引付」に描かれた農村景観は、荘園時代以来、今も受け継がれていることが分かる。鎌倉時代の絵図には社寺やため池、丘陵などが詳細に記され、当時の姿をとどめる一帯が中世の一大荘園遺跡を構成している。

◇静けさの中で

 政基の院号が由来になっている慈眼院の多宝塔は、日本三名塔のうちの一つで、市唯一の国宝にもなっている。庭園の苔(こけ)むすさまが美しく、修復を繰り返しながらも中世の姿を今に伝えている。

 南寿明住職によると、「鳥が羽を広げたよう」と評する人もいるそうで、「静けさの中で、仏様の世界を感じていただきたい」と呼び掛ける(拝観料は200円、要予約)。

 その慈眼院から、かんがい用に引かれた井川水路を隔てた日根神社。政基が「京の雅を感じさせるほどの感銘を受けた」と記した春の例祭「まくらまつり」は、華やかな飾りまくらを付けたのぼり3基が氏地を巡る奇祭だ。岡みずほ宮司は「だんじりの激しさとは対照的だ」と説明する。

◇山間部に呼び込む

 市では、2019〜20年度の日根荘を含む3件の日本遺産認定を受け、関西空港やりんくうタウンなど湾岸部が拠点となってきたにぎわいを、山間部にも呼び込みたいと考えている。

 タレントや声優ら著名人を起用したPR動画の作成、ARアプリの開発も進めている。市文化財保護課の中岡勝課長は「地元では団体を設立したり、日根荘のPRに向けた機運が高まりつつある。原風景が楽しめるまちづくりを続けていきたい」と話している。

 日本遺産 地域の歴史的魅力や特色を観光資源として活用するため文化庁が認定する制度。社寺や城郭、伝統芸能、祭りなど有形、無形の文化財で構成される。認定されると、多言語ホームページの作成や観光ガイドの育成などへの財政支援が受けられる。本年度は21件が認められ、初年度の2015年以来、累計で104件となった。泉佐野市では、ほかに「北前船寄港地・船主集落」「修験道はじまりの地」のストーリーを構成する自治体になっている。


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