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「仮想劇場ウイングフィールド」の第1弾「ブカブカジョーシブカジョーシ」。左一番上が、それぞれの役者の映像を合成し、リアルタイムで配信された合成画面(劇団提供) |
黒と白。モノクロの画面に、スーツに身を包んだ人物が机に向かう1人を取り囲む。浴びせられる言葉に電車の音が重なる−。
新型コロナウイルス禍は、エンターテインメント界も直撃した。多くのアーティストや劇場が無観客上演を有料配信するなどしたが、異彩を放ったのが大阪を拠点とする劇団「エイチエムピー・シアターカンパニー(hmp)」(森田祐利栄代表)。
出演者が自宅からオンライン上で演じ、それらを合成させた画面をリアルタイムで配信する「仮想劇場ウイングフィールド」。冒頭は、昨年5月末に配信した「ブカブカジョーシブカジョーシ」(大竹野正典作)の一場面だ。
「無観客上演だと意義はない。小劇場の劇団でしかやれない、小劇場らしいオンラインを考えた」。演出の笠井友仁さん(41)は明かす。
当初は、同作を大阪市中央区の小劇場「ウイングフィールド」での上演を予定。対面稽古を続けていたが、3月中旬で打ち切り、公演も中止にした。
「やめると決めたものの、役者の精神的不安と負担が大きかった」と笠井さんは振り返る。演じることは自己を確立する大切なアイデンティティーの一つ。映像スタッフの提案で役者とインターネット、映像技術を駆使した“ハイブリッド演劇”が実現した。
稽古を5月に再開。各自がオンラインアプリで自宅から参加した。「合宿」と称して、一日を通して稽古したことも。笠井さんは「さすがに目が疲れた」と苦笑する。
音声を事前に録り、本番は声に動きを“当て振り”。役者は、見えない相手の動きや空間を意識しなければならない。出演した森田さんは「それまでの下地があったが、ストレスは感じた。(普段の舞台で)言語以外の情報を、たくさん受け取っていることが分かった」と振り返る。
本番は、作品の世界観を表し、合成画面をモノクロに加工。出演者の部屋を見ることができる「ZOOM観客席」も開設し、最大442人が視聴した。
昨年7月に「死者の書」(折口信夫原作)も上演。笠井さんは「舞台でも映画でもアニメでもない、独特の世界をつくることができた」と手応えを感じている。劇場公演を再開しているが、並行して仮想劇場も続けるつもりだ。「今は常に上演に向けたリスク、プレッシャーが繰り返される。仮想劇場だと遠隔地や病院、外国からも参加できる」と笠井さん。
リアルな劇場に勝るものはない。ただ、新型コロナ禍だからと諦めることばかりではなく、表現の場を求めて工夫と挑戦は続く。
(第1部おわり)1 | [温故知新] コロナ禍に乗じた計略 |
2 | 大阪府内公立中3進路希望 傾向おおむね例年通り |
3 | 尿で線虫がん検査 北区に受け付けセンター |
4 | バレンタイン商戦本格化 コロナ禍でも活況期待 |
5 | 2万人にPCR検査 大阪市 福祉施設のスタッフに |