共創(ともにつくる)

 新型コロナウイルス禍にある今の社会において、各分野で道を切り開こうとしている人たちの姿を追う年間企画「共創〜ともにつくる〜」。第2部は新年度が動き始めた中で、悩みや葛藤を抱えながらも新しいことに挑み、課題を乗り越えようとしている人たちを取り上げる。

第2部 息吹(中) 「障害者と社会つなぐ」

2021年5月3日

彼らが救世主になる 「困りごと」に寄り添い解決

「今までになかったものをかけ算して、社会課題に向き合いたい」と話す中川さん。団地の一室を改装した「杉本町みんな食堂」は、高齢者の孤食×団地の空き室活用×障害者雇用のかけ算だ=大阪市住吉区

 「こんにちは」−。平日の正午すぎ、大阪市住吉区にある団地の一室に高齢女性が訪れてきた。「ここがやってくれると助かるわ。久々に人と話ができた」。そうほほ笑む女性に、エプロン姿の若い女性がそっと水を差し出す。「ご飯の量はどのくらいにしますか?」「少なめでお願いね」。木目の家具がそろえられた室内に、食欲をそそるコンソメの香りが広がり、穏やかな時間が流れる。

■民間企業に出向

 大阪府住宅供給公社が管理する「OPH杉本町」。2007年に竣工(しゅんこう)し、65歳以上の居住者が約6割を占める。単身世帯も多く、子どもに限らず高齢者ら地域住民に開けた「みんな食堂」を18年にオープンした。

 19年度にグッドデザイン賞を受賞。安価で食事を提供する地域食堂は全国で広がるが、杉本町が注目されるのは調理や接客するスタッフが、知的や精神の障害がある若者であることだ。彼らは民間企業に障害者雇用され、“出向先”として食堂で働いている。

 「人口減少時代において、彼ら(障害者)は社会課題に取り組む小さなNPOや団体の救世主になり得るかもしれない」。食堂をプロデュースする「GIVE&GIFT(NPO法人チュラキューブ)」(大阪市西区)の代表中川悠さん(43)は、笑顔を浮かべる。

■マッチング

 中川さんは07年に会社を設立。福祉授産品のブランド化や伝統工芸との「伝福連携」をはじめ農業や漁業、まちづくりなどあらゆる社会課題に取り組んできた。

 今、力を注ぐのが障害者と障害者を雇用する企業、社会課題に取り組みながらも担い手不足に悩むNPOや団体をつなぎ合わせる「ユニバーサル・リクルーティング(ユニリク)」という活動。杉本町の取り組みはその一つだ。

 障害者の就労継続支援施設(B型)の全国平均の工賃は、月1人当たり1万6千円(19年度)。障害者雇用促進法の法定雇用率を達成した企業は5割に満たない。さらに、雇用後の定着率は低く、環境整備や仕事内容のミスマッチが課題に挙がる。

 4月からは、企業の人事担当者向けの6カ月連続講座を始動。障害者の仕事の作り方や雇用管理のほか、実際に施設を訪れ、企業間の連携を図る。

■自然な流れ

 中川さんの母方の祖父は精神科病院を経営し、父は義肢装具の開発者。幼少期から、障害と共に生き、アシストを受けて社会で生活する姿を見て育った。演劇青年だった中川さんが地域情報誌の編集者を経て、「困りごとの解決」を仕事にしたのは、自然な流れなのかもしれない。

 「(社会課題に)無関心の人に気付いてほしい。困りごとがあるならば解決したいし、寄り添って『乗り越えましょう』『チャレンジしよう』と言い続けられる社会であってほしい」。共に生き、共に創る社会の実現を目指す。

ミニクリップ
 障害者雇用促進法 障害者の雇用安定のために1960年に制定。労働者が43.5人以上いる場合は、国と自治体が2.6%、民間企業は2.3%の「法定雇用率」が定められる。未達成は納付金が徴収され、達成すると調整金や報奨金、助成金が支払われる。


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