Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

駐大阪韓国総領事 呉泰奎さん

2019年2月7日

 日本と韓国の関係が急速に冷え込んでいる。昨年10月の元徴用工訴訟判決や12月の火器管制レーダー照射問題を背景に、両国政府は主張の応酬を続け、事態収拾の糸口は見えないまま。1965年の国交正常化から半世紀以上たつ中、対立ムードは深まる。「対立を最小化し、友好と協力を最大化する」ことに注力するという駐大阪韓国総領事の呉泰奎(オテギュ)さん(58)に、今後のありようを聞いた。

■葛藤浮き彫りに

 昨年2月に平昌(ピョンチャン)冬季五輪が開かれ、安倍晋三首相が韓国を訪問した。5月には文在寅(ムンジェイン)大統領が韓国、中国、日本の3カ国首脳会談のため日本を訪れた。韓国大統領の訪日は約6年5カ月ぶりのことだった。両国の関係は温かいムードが漂っていたが、元徴用工訴訟判決をきっかけに、政府間で葛藤が浮き彫りになった。

 根本的な原因は、両国間の歴史問題を解決せず、双方の立場を整理できないまま1965年に請求権協定が結ばれたことにあると思う。昨年前半の両国関係に比べて現状は冷ややかなムードが漂っている。お互いに時間を掛けて、冷静に落ち着いて接近する努力をしなければいけない。

■「官冷民温」

 これまでの両国関係は政治的対立が起きれば民間や地方自治体レベルの交流も冷え込んだが、現在はそうではない。つまり「官冷民温」だ。実際、民間レベルでは両国の間を行き交う人たちが昨年初めて1千万人を超えた。北朝鮮による核実験やミサイル発射の動きがなく、朝鮮半島情勢の不安が和らいだことで韓国に行きやすいと思った日本の方々もいるのではないか。

 日本では、韓国ドラマ『冬のソナタ』による第1次韓流ブームが2000年代前半に起きた。その後、K−PОPの東方神起、少女時代、KARAなどが人気を博した10年ごろの第2次ブームを経て、現在は再びK−PОPに注目が集まり、さらに「チーズタッカルビ」の料理に代表される第3次ブームが広がっている。韓国でも大学周辺に位置する日本の居酒屋、すし屋、うどん屋が流行している。お互いの文化を理解する人が増えれば、両国の友好につながる。

■友好のメッカに

 特に、関西地域は韓国との歴史的、文化的、観光的な交流が盛んだ。関西空港を通じて関西を訪れる外国人の約3割は韓国人で占めている。大阪で今年6月にあるG20サミットには文大統領が出席し、韓国大統領としては21年ぶりに大阪で宿泊する。この訪問を機に、関西が「韓日友好のメッカ」になることを願っている。

 25年には大阪・関西万博も開かれる。韓国としても大いに期待しているところだ。万博テーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」には学ぶべきものがある。韓国の高齢化は日本と比べて10年遅れて進んでいるが、そのスピードは速まっている。それにもかかわらず、韓国のセーフティーネット(社会保障制度)は弱い。世界でいち早く超高齢社会に突入した日本がどう対応するかを見ることができれば、韓国社会に役立つと思う。

■信頼関係の構築を

 朝鮮半島を巡る流れは変わりつつある。平昌冬季五輪をきっかけに、文大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による南北首脳会談が3回行われた。6月には史上初の米朝首脳会談がトランプ米大統領と金委員長によって実施された。朝鮮半島の非核化に向けた目に見える成果はまだなく、停滞状態が続いていたが、今月下旬に2回目の米朝首脳会談が予定され、具体的な成果が見込まれている。今年は、平和の動きが後戻りできないほどの確固たる位置を占めることができるかどうかを決める重要な年になる。

 アジアの平和のためには韓国と日本の連携が必要だ。欧州などから見ると、両国は「東アジアの双生児」と言われている。それほど民主主義と人権、法の支配、市場経済という価値を共有している。このような価値の共有は年間1千万人にも及ぶ人的交流とともに両国友好の強固な基盤になっている。両国の政治指導者たちは信頼関係を強め、双方の間に横たわる問題を乗り越えなければいけない。

■現場の声を伝えて

 私は昨年4月に駐大阪韓国総領事として着任したが、それ以前は新聞記者だった。1986年に韓国日報の記者になり、その後移籍したハンギョレ新聞で2017年3月まで論説委員室長を務めていた。この間、日本の情勢を取材し、両国関係の記事も書いてきた。ジャーナリストは関係悪化のニュースを伝え、読者もそれに目を向ける傾向は確かにあるが、私が今、ジャーナリズムの世界から外に出て感じるのは現実との乖離(かいり)だ。

 両国政府間に葛藤がある時こそ、友好関係の構築に活発に取り組むという声を大阪の民間人から聞く。そうした現場の声を、ジャーナリストはもっと伝えてほしい。記者だった自分自身を振り返り、反省を込めてそう思う。

 オ・テギュ 1960年生まれ。ソウル大、東国大言論情報大学院卒。ハンギョレ新聞創刊メンバーで、東京特派員、スポーツ部長、社会部長、民族国際部門編集長、出版局長、論説委員室長などを歴任。2018年4月に第18代の駐大阪韓国総領事就任。

交流の裾野拡大を
 ○…日韓両政府が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)問題が過熱していたおよそ10年前、日本国内は韓国のポップス音楽(K−POP)アイドルの少女時代やKARAが人気を博し、韓流ブームに沸いていた。全国各地で始まった日本人によるK−POPのコンテストを取材した際、自治体職員が説明した開催の意図は印象的だった。歌は韓国の言葉を覚える手段として最適であり、日韓交流のキーマンを増やすことにつながる、と。現在の日韓関係が政治的に冷え込むだけに、自治体や民間レベルによる交流人口の裾野を広げる施策は一層重要になると思う。韓国人の反日感情、日本人の嫌韓意識が広がる社会は決して健全と言えない。


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