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大阪希望館、上海1930のパンフレット |
あんた、ジャンヌ・ダルクになれ−。フランスの国民的英雄として知られる聖女ジャンヌ・ダルク(1412〜31年)を引き合いにした中小企業社長の訴えに感化し、あんがいおまるさん(72)は1995年5月に劇団「あんがいおまる一座」を結成、舞台作りにまい進している。大阪市港区の石炭倉庫を拠点に公演を続けて四半世紀。「お客さんと共有したいメッセージを、芝居の中に入れている。メッセージは優しさだ」。彼女は果たして、現代のジャンヌ・ダルクか。
JR、地下鉄の弁天町駅近くに石炭倉庫の空間を設けたのが1995年。それ以前は、地下鉄で三つ先の本町駅に近い9階建てビルの屋上(私は「10階」と呼んでいた)に、経営する出版社の事務所を構えていた。この頃、大阪市出身のSF作家眉村卓さんや映画監督田中徳三さんの作品展を、近所の釣具店2階のギャラリーで開いていた。
ある日、若者が訪れ「このギャラリーを貸してほしい。芝居がしたい」と言って来た。話を聞いてみると、安価で借りられる劇場が少なく、仮に借りることができても、2年待ちの状態だった。そこで、私も、若者が芝居できるような安価な空きビルや空き部屋を探し回ったところ、知人の設計士から、今の石炭倉庫を紹介してもらった。広々とした階段と丸い柱にほれ込み、誰でも参加できるような劇場にした。併せて、私の出版社も移転した。
当時の日本は、バブルが弾けていた。95年は阪神・淡路大震災が起きた年でもある。私の知人の中には経営難で自殺を図った人もいる。知人の一人で、中小印刷会社の社長は、納品に訪れた銀行から「こんなもの使えない」と言われたそうだ。景気のいい頃ならば、相手に食ってかかったが、会社の従業員が口を開けて給料を待っていると思い、我慢したと話していた。この社長が私に伝えた言葉が「あんた、ジャンヌ・ダルクになれ。この世の中をなんとかしろ」だった。その時のことを、私は2002年に上演した『上海1930』のプログラムにこう書いた。
“私に何ができる。具体的に何をすればいい。今、起こっているさまざまな不都合な状況を、自分のこととして捉えているだろうか。自立した自分の問題であれば、おのずと行動(考え、実践)するだろう。さぁ、私は何をするだろう”と。
『上海1930』は、私たちの座付き作者綾羽一紀さんが手掛けたもので、ジャーナリストのアグネス・スメドレーを描いた。東京俳優座でも上演したところ、音楽評論家の湯川れい子さん、ジャーナリストの筑紫哲也さん、作家の下重暁子さんにも見ていただいた。下重さんからは「この作品を日本中でやってほしい」との評価をもらった。来年の春か秋、劇団設立25周年として『上海1930』を再び上演するつもりだ。
あんがいおまるって、変な名前だけど、ちょっと意味がある。「あんがい」は案外、案の外、企画計画の外のこと。つまり、考えなくてもいい、素直に感じていればそれでいいという意味がある。「おまる」は「○」、宇宙の意味を込めている。私自身、20代の頃から「私は宇宙」と唱え続けてきた。空を見上げて何かを感じる。そんな作品を届けたいと思う。
この25年間、私は、芝居にメッセージを入れたいと思い続けてきた。昨年夏に上演した『大阪希望館』は、終戦直後の大阪駅構内で実際にあった、一時保護所の館長を取材した難波利三さんの同名小説。上演は5年ぶりだった。再び上演に踏み切ったのは、その後の多くの事柄が私たちに胸苦しさを与えだしたから。『大阪希望館』のメッセージは「戦争はダメよ」だが、もう一つは「優しさ」だ。優しさがあれば、戦争は必要ない。ちょっと話は変わるけど、電車の車内に設けられた優先席、私は嫌いだ。みんなの中に優しさがあれば、優先席は要らない。優しさの観点で優先席は備えられていると思うけど、その優しさは本当の優しさではない。私は年齢的に優先席に座れるけど、座らない。自立していなければ、本当の優しさはできない。
あんがいおまる一座の目指すものとして四つ掲げている。「一人一人の自主と自立により成り立つ」「一人一人が作品づくりの共謀者である」「一人の中にある、多くの可能性を導きだす」「一人一人がお互いを尊ぶ」だ。四つ目の「−尊ぶ」にはこう補足している。
“私たちは瞬時、瞬時の初めてを迎えていることを、確認しなければならない。これができると、お互いがここにいることの不思議さとスゴサに気づくだろう。そして、それが、他者を尊ぶ源泉であり、舞台上の表現だけでなく、一座自体が、人が生きることの表現をかもしだしていくだろう”と。
私は、ジャンヌ・ダルクに近づいていない。誰かの役に立っているか、と問われれば、クエスチョンだ。華やかに世の中を動かすことはできない。でも、これからも、あんがいおまる一座として目指し、掲げるものは同じ内容かなと思う。
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