Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

涙活講師・放送作家 橋本 昌人さん

2020年4月30日

涙誘う感謝の手紙 「コロナ疲れ」も癒やして

橋本昌人さんの著書

 就活、婚活、終活などの「○活」よろしく、涙(るい)活は、涙を流すための活動だ。ジ〜ンと来た時に流れる「情動」の涙を誘うため、涙活講師の橋本昌人さん(55)は、放送作家の仕事を通して出合った「感謝」の手紙を一冊の本『なみだのラブレター』にまとめた。新型コロナウイルス感染拡大を受けた外出自粛ムードが続く中、「コロナ疲れ」を癒やす効果が涙活にはありそうだ。橋本さんに話を聞いた。

■看護師、受刑者、芸人に講義

 涙活の講演依頼者は企業、学校、団体などさまざま。病院の研修会に招かれた時は、新人看護師が患者の痛みを分かるようになるため、涙活の講演を頼まれた。刑務所からの依頼もこれまでにあった。更生を誓う受刑者に「人生って捨てたものではない」ことを理解してもらうための講演依頼だった。吉本興業の芸人養成学校NSCでも講演している。笑いだけでなく、涙も知らなければお笑い芸人として売れないということだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちはいま、疑心暗鬼の状態にある。自分が感染しているのではないか、他人からうつされるのではないか、と。外出自粛を求められ、映画を見に行けず、飲み会にも行けない。ストレスをため、生きることに疲れている。コロナ疲れを解消してもらうためにも、涙活の講演を開きたいが、人を集めることができない。今、私が考えているのはインターネットのオンライン配信による涙活。5月の大型連休明けにも始めたい。

■遊園地で

 放送作家の私が涙活講師をライフワークにした背景には、テノール歌手の加藤ヒロユキさんが2003年6月に始めたラジオ番組『音楽のソムリエ』でリスナーから募った「感動」の手紙がある。この番組に寄せられた手紙の一つが『なみだのラブレター』に入っている。タイトルは「遊園地で」。結婚を控える娘に寄せた父親の手紙だ。

◇   ◇   ◇

 娘・ミサトへ

 いよいよ来月、結婚するんやね。おめでとう。ジューン・ブライドに憧れてたはずやのに、きみは結局、お母さんの旅立った8月を、式の日に選びました。お母さんも天国で喜んでるでしょう。

 あなたの母親であり、私の妻であった、われわれの最愛の女性は、ある、小さな記事として新聞にも掲載された交通事故により、きみがまだ6歳の時に亡くなりました。突然すぎて、悲しみ抜いて、途方に暮れて、精神的に参ってしまった私は、死のうとしたんです。バカなことに、きみを連れてお母さんを追いかけようとした。

 その日、最後の思い出にと、家族でよく出かけた遊園地に2人で行きました。きみは嬉(うれ)しそうに、はしゃぎ回った。いつも家族で乗ったメリーゴーラウンドにひとりで乗るきみを、私は精いっぱいの笑顔を作って、だけど力なく手を振って、きみが「お父さーん!」と呼ぶ声に必死で応えていました。

 とにかくきみは楽しそうで、これが最後の遊園地になることも知らずに、いや、今日が最後の日であることも知らずに、元気いっぱいに走っては、乗り物をハシゴしてた。きみが楽しげであればあるほど心は痛んで、でも、心が痛めば痛むほど、必死で笑顔を作るようにしました。

 やがて、急流すべりを乗り終わって、こちらに駆けてきたきみは、満足げな表情で見上げつつ、私と手をつないで、ニコニコしながらこう言いました。「もういいよ、お父さん。もう、お母さんのところ行こ」

 きみは気づいてたんやね。きみを抱いたまま、ムリヤリ、父親の私がこの世を去ろうとしていたことを、なぜか知っていたんやね。この言葉で、私はハッと目が覚めました。私はこんなことを言った。

 「あほ! お母さんに怒られるぞ、ミサト! いつか、お母さんがゴハン作って待ってるのに、迎えに来てくれたオマエと駅前の焼き鳥屋に寄り道した時みたいに、『そんな勝手なことするんやったら、2人で出て行きなさい!』って、お母さんスネるぞ! スネたらひつこいぞ〜!」

 こう言うときみは…、お葬式の日以来、お母さんのことでは全く泣かなかったミサトは、セキを切ったように大きな声で泣きだしたね。

 24年前のあの日のことを、きみは憶(おぼ)えていないと言います。でも、きみに子どもが、そう、私とお母さんにとっての孫ができて成長したら、あの遊園地にみんなで行こう。お母さんの分も入園券をちゃんと買って、みんなでメリーゴーラウンドに乗ろう。そしてみんなで、思いっきり笑おな。

 ミサト、本当におめでとう。

■手紙の「威力」

 私が最近読んで印象に残った本は『ナミヤ雑貨店の奇蹟(きせき)』(東野圭吾著)。過去と現在がつながる不思議な雑貨店が舞台。相談を請け負う店主と、現実に背を向ける青年の時空を超えた交流の物語で、手紙の「威力」が描かれている。映画化され、店主を演じた西田敏行さんの演技も印象的だった。

 私が個人的に初めて手紙をもらったのは、中学3年の時。大阪から東京へ転校する直前、友達からもらった。「橋本が大阪にいるのはあと○日だ。カウントダウンして涙ぐんでいる」という気持ちがつづってあった。そんなそぶりを見せない友達だったが、人間の本質を現すところが手紙のすごさだと思った。

 私はまだ「本気の手紙」を書いたことがない。いつかは、大事な人に書こうと思っている。

 はしもと・まさと 1965年、大阪府寝屋川市生まれ。大阪芸術大芸術学部放送学科卒。放送作家事務所と企画制作会社の機能を併せ持つ「ブック・ブリッジ」(大阪市西区)の代表。吉本興業の芸人養成学校「NSC」特別講師。日本笑い学会理事。涙活講師、ラブレター研究家をライフワークにしている。家族は妻、長男、長女。涙活の問い合わせは電話090(8790)4608。

 【なみだのラブレター】 橋本昌人著、ヨシモトブックス発行。放送作家として担当したラジオ番組のリスナーなどから募った手紙44通を紹介。「祖母から孫へ、子どもから親へ、生徒から恩師へ−。誰かから誰かへの、本気の手紙のことを、私は『ラブレター』と呼びます」と著者。


サイト内検索