Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

元財務省官僚(現追手門学院大教授) 百嶋 計さん

2020年9月3日

風通し、誠実さ忘れるな 森友・加計・桜 念頭に指摘

 元財務省官僚で造幣局理事長を務めた百嶋計さん(61)=大阪市在住=は現在、追手門学院大の教授を務める。官僚機構を離れて思うことは? 「風通しの良い職場を」「誠実さを忘れないで」。森友学園、加計学園、桜を見る会などの問題を念頭に、百嶋さんはそう指摘した。

内閣人事局 発足に関与

 財務省を退官した2018年7月からそれほど年月がたっておらず、偉そうなことを言える立場でもないが、私は出向先の内閣官房で国家公務員制度改革推進本部事務局の総括参事官として内閣人事局創設の検討に携わった。その経験を踏まえて現在の官僚の仕事ぶりについて考えを述べたい。

 内閣人事局の検討は08年の福田内閣で着手され、麻生内閣に引き継がれ、民主党政権を経て、第2次安倍内閣の14年5月に発足した。歴代の内閣でなし得なかった内閣人事局の発足を、なぜ安倍内閣はなし得たか。12年の衆院選で民主党から政権を奪還した自民党が、13年の参院選も勝って衆参の「ねじれ」を解消したことで、安倍内閣が安定したことは大きい。こうしたバックグラウンドは、私が所属する日本行政学会でも多くの学者が研究しているほどだ。

 私自身、麻生内閣の甘利明公務員制度改革担当相に仕え、内閣人事局発足のための国家公務員法改正案の作成に加わった。当時はメディアの取材を受け、『自民党と公務員制度改革』(塙和也著、白水社)でも取り上げられた。この本は福田康夫首相、麻生太郎首相、渡辺喜美担当相、甘利担当相らの改革を巡る戦いを浮かび上がらせた一冊だ。

■真の国益考えて

 内閣人事局の発足により官邸主導が強まり、各省庁は官邸の意向に沿った下請けとなり、そのことで、優秀な学生の官僚志望が減ったという見方があるが、そうではない。官僚志望の減少は、ITや外資系など魅力的な企業が増えたことや少子化が原因だ。

 日本は議院内閣制だから、政治主導になるのは必然だ。国民から選ばれた国会(政治)が行政権力の乱用を防ぐためにも三権分立=図解=があり、国会で指名された首相(内閣総理大臣)が行政のトップとして民意を反映していく。大切なことは、官僚の仕事は高度な専門的能力を生かして政策の選択肢を企画、立案することであり、それを決断し政策を推進するのが政治ということだ。

 日本の行政は縦割りの弊害が指摘されてきた。これも内閣の事務は分担管理になっているから必然とも言える。例えば、財務省はお金の出し入れを担うため、赤字にならいように考える。経済産業省は産業界の発展を考え、規制緩和などいろいろなアイデアを打ち上げる。総務省の場合は、同省出身の知事が多いことからも分かるように地方の立場から物事を考える。こうした省のカラーや省益を調整し、真に国益を考えるため、内閣官房・内閣府があり、さらに内閣人事局が誕生したということを忘れてはいけない。

■安倍首相退陣、コロナ禍の今こそ

 安倍晋三首相の退陣は残念だが、第2次安倍政権の約7年半の歳月は政治主導の行政を最大限可能にした。新型コロナウイルス禍という前例のない難局にある今こそ、現役官僚はその能力を存分に発揮し、結果を出して国民に安心をもたらしてほしい。

 政策は各省バラバラではいけない。困難な調整が必要なこともあろうが、スピード感を持って調整にあたってほしい。しかし政治主導・官邸の指示といっても官僚の調整は丁寧に、同床異夢、だまし討ち、決裂見切り発車という状況が最も禍根を残すことになる。自身の調整経験では「至誠通天」ということを強く意識していた。

 緊張感を持って仕事することも重要だ。政権交代前の民主党で、「ミスター年金」と呼ばれた長妻昭衆院議員が消えた年金問題や居酒屋タクシー問題を追及していた頃のような緊張感が、今の官僚には薄れているのではないかと思う。

 現役官僚に対してミクロな注文もしたい。それは、風通しの良い職場にしてほしいということだ。私は国税庁長官官房人事課長の頃にいち早くパワーハラスメントのない職場を目指した。一般にパワハラ当事者は「指導だ」と言い訳するが、人材をつぶしてしまえば元も子もない。部下ができなかった課題について上司が解決策を導き出せなければ、管理職の能力も資格も無いということだ。もう一つ、肝に銘じるべきは国民に対する誠実さだ。資料が無いとか、破棄したという答弁はもはや通用しない。記憶を手繰ってでも誠実に説明すべきだ。官僚は皆それができるはずだ。ましてや、公文書改ざんは、論外だ。

■「戒石銘碑」が教材

 福島県二本松市には1749年に当時の藩主丹羽高寛が建立した石碑「戒石銘碑」があり、国の史跡に指定されている。そこには「爾俸爾禄 民膏民脂 下民易虐 上天難欺」と刻まれている。「お前の俸禄は民の汗と脂によるものだ。その民を虐げるのは簡単だが、天は欺けない」という意味だ。つまり、公務員は国民、住民の税金から給与を受けていることを常に意識しなければいけない。戒石銘碑を教材にして、私はかつて新人官僚研修で話をしたこともあったが、今は公務員を目指す学生に講義をしている。

 追手門学院大教授として、行政法を教えている。行政法は行政手続き、行政作用、行政救済に関連する行政関係諸法の総称だ。新聞記事やテレビニュースを通して生きた学習素材が身の回りにある点が特徴だ。新型コロナ禍のため、前期はオンライン授業だったが、検察庁法改正の問題点を質問するメールが学生から届いた時は、うれしかった。おそらく、有名タレントが法改正に反対する意見をSNSで述べたことが、学生の関心を高めたのだろう。国会議員がどんな立法をしているのかなど、主権者教育の観点からも行政法を学ぶ意義は大きい。

 この春からゼミを持つようになったが、これからも、私の実務経験を生かした講義を進めたい。「天下り官僚ではありません」と私は、オープンキャンパスなどで自己紹介している。

■造幣局の思い出

 私は、財務省退官前の15年4月から18年3月まで造幣局(大阪市北区)の理事長を務めた。当時の行政改革担当相の河野太郎衆院議員が視察に訪れ、造幣博物館を土、日曜日も開館するように指摘を受けた。桜の通り抜けの開催や天神祭奉納花火への協力のように、造幣局の地域貢献をさらに広げたいと考えていたので、河野担当相の「政治主導」に背中を押してもらったという思い出がある。

 これからも大阪の地域とともに歩む造幣局であり続けてほしい。OBとしてそう願っている。

ひゃくしま・はかる 1958年、奈良県大和郡山市生まれ。大阪教育大付属高天王寺校舎卒、京都大法学部卒。81年、大蔵省入り。財務省のほか国税庁に11年、調整担当として内閣官房・内閣府などに7年在職。2015年4月〜18年3月、独立行政法人造幣局理事長。同年7月、退官。追手門学院大経営学部教授(行政法)、京都大公共政策大学院非常勤講師。趣味は史跡巡り・音楽、「財務省の桑田佳祐」と言われたことも。


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