Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

シニアミュージカル劇団発起塾創設者 秋山シュン太郎さん

2020年10月1日

メインテーマは「本日青春」 人生100年時代“輝き”求め

「ポケベルが鳴らなくて」に出演する塾生=9月12日、大阪市中央区のドーンセンター

 「シニア」と名乗る通り、ミュージカル劇団発起塾創設者の秋山シュン太郎さん(63)は、塾生募集に当たって「50歳以上」の条件を設けている。現在の塾生は総勢180人。平均年齢は65歳で、最高齢は80歳を超える。今秋は、1年前の昨年9月末に役目を終えた「ポケットベル」と中高年世代の境遇を重ね合わせた舞台を繰り広げている。「発起塾のメインテーマは『本日青春』だ」と秋山さん。大阪市浪速区の湊町リバープレイスを拠点に活動を続ける発起塾の来し方、行く末を通し、人生100年時代のありようを語ってもらった。

■24時間戦えますか

 栄養ドリンクのテレビCMから生まれた「24時間戦えますか」が流行語大賞になった1989年当時、私は脚本家・演出家として、おじさんたちを元気にする企画を大手広告代理店に提案していた。中年の男たちが仕事でクタクタになって最終電車で居眠りし、乗り過ごしてしまう。そんな世相を踏まえ、元気にするための企画だった。残念ながら、広告代理店から却下されたが、その時の企画は常に頭にあった。そして、中高年を対象とする素人の劇団を立ち上げようと思い立った。

 とはいえ、中高年の人たちがせりふを覚えられるだろうかというと疑問はあった。仮に、せりふを覚えたとしてもテンポが悪く、表現力が今ひとつであれば、劇団を作る意味は無い。だが、待てよと思った。中高年の人たちは若い頃に社交ダンス、ディスコ、カラオケブームを経験しているはずだ。歌ったり、踊ったりすることはできる。ミュージカルのストーリーは結構、勧善懲悪であり、起承転結がはっきりしているため、せりふを覚えやすい。つまり、中高年でも負担は少ない。ミュージカルならば大丈夫だと思い至った。

■応募者殺到

 早速、塾生募集のチラシを作成したが、配布先が問題だった。中高年が集う大阪市内の区民センターを選択肢の一つとして考えたが、手芸や囲碁を楽しむ人たちがミュージカルに興味を覚えるとは思えなかった。どうすれば良いか悩んだ。

 広告代理店と一緒に仕事していた経験を基に、新聞各社への情報提供を試みた。すると、ある新聞社の記者が取材にやって来た。ちょうど介護保険制度が始まる頃であり、この記者は「介護保険の取材で、年を取ることに罪悪感を覚えていたが、シニアミュージカル募集の案内を目にして心が晴れた」と取材動機を話していた。新聞記事のおかげで、この時約80人集まった。神戸、京都、和歌山からも応募があった。

■一念発起

 集まった人たちの大半は女性だった。結婚して、子育てして、親の介護して、気がつけば、鏡の前にしわだらけの自分がいる。そんなことを話す人は少なくなかった。もっと人生をハッピーに、活動的に、前に進めたいと願って応募してきたのだろう。

 発起塾は99年に誕生した。名前は仏教の「一念発起」に由来する。当初は、塾生の女性たちが発起塾の活動で外出すると、夫が「俺の飯は!」と怒るという話を聞き、がくぜんとしたものだが、現在は、夫も家事をする時代になり、この20年間で、中高年の状況は変わってきた。エベレスト登頂を目指したり、フルマラソンに挑戦する人もいる。いい時代になったと思うが、そこへ、新型コロナウイルスが襲って来た。

■ウィズコロナ

 新型コロナ感染の重症化率、死亡率が中高年の世代は高い。隆盛を極めていた中高年の趣味は、コロナ禍によって冷や水を浴びせられた格好だ。経済が停滞し、自分たちの年金はこれまで以上に期待できず、息子や娘の収入も減る。従来のようなお金の使い方ができなくなる。そのことを踏まえ、新たな喜びを考えていかなければいけない。

 中高年の誰もが、老いていく悩みを内包している。気持ちが沈むのではなく、元気になれる何かを見つける必要がある。

 ウィズコロナを見据え、発起塾はインターネットテレビの開設に向けて奮闘中だ。タイトルは「本日青春テレビ」。シニアによるシニアのためのテレビだ。来年春の開設を目指している。ドラマやニュースを発信したい。シニアに役立つ情報を発信するため、大阪日日新聞をはじめ地元メディア関係者にも協力してもらえればと思う。

■サンプル示す

 発起塾を退塾すると、化粧をしなくなったり、おしゃれも遠のいた話を聞く。裏を返せば、発起塾で活動している時は輝いているということだ。塾生の間でお互いに意識し合い、これまでに2組のカップルが誕生している。

 人生は一度しかない。どうやって老後を暮らし、最期を迎えるか。極論だが、シニアは「ポックリ」いくために努力し、あらがっている。「こんな生き方はいいな」と言われるようなサンプルを発起塾で示していきたい。

 【ポケベルが鳴らなくて】

 シニアミュージカル劇団発起塾が公演中の「ポケベルが鳴らなくて」は、昨年9月のポケットベル接続サービス終了に着目した物語。「999(サンキュウ)」「33414(さみしいよ)」「3470(さよなら)」の語呂合わせが流行し、ブームを巻き起こしたポケベルは、その後普及した携帯電話に取って代わられた。そんなポケベルをはじめ、ダブルカセットデッキ、VHSテープ、バービー・ケン人形、おみくじ機、水飲み鳥にも焦点を当てている。

 「時が過ぎ、身の回りにあったものは、不便な古い、誰も見向きもされないものになっていきました。まるでわれわれシニアのように…。そんなシニアの最後の意地についての物語です」と秋山シュン太郎さんは解説している。次回の大阪公演は10月22、23の両日、大阪市中央区のドーンセンターで。

あきやま・しゅんたろう 1957年、岡山県総社市生まれ。本名は、秋山進。大阪教育大教育学部卒。脚本・演出家。99年にシニアミュージカル劇団発起塾を創設し、2000年に第1回公演「荷車よ北北西に進路を取れ」。02年にニューヨーク、04年にホノルルで公演。なにわ人形芝居フェスティバル事務局長、一心寺シアター?楽事務局長を歴任。


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