Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

大起水産会長 佐伯保信さん

2020年12月12日

魚食文化普及に専念 「空飛ぶマグロ」を旗印に

空飛ぶマグロのイラスト(大起水産提供)

 飛行機のように、流線形のマグロが大空を飛ぶ姿が、大起水産(本社・堺市北区)のトレードマークだ。掲げたテーマは「食卓豊漁」。関西を中心に回転寿司(ずし)店や水産小売店を展開する創業者の佐伯保信会長(76)は、魚食文化の普及に余念がない。新型コロナウイルス禍の巣ごもり生活は、人々を家庭料理に向かわせ、結果的に「新鮮で、健康にいい魚の素晴らしさに気づかせてくれた」と説く。

■天下の台所

 マグロの解体販売をメインに、ズワイガニ、カズノコ、めんたいこなどの正月商材を販売する恒例のイベント「大阪まつり」を、本社併設のまぐろパークで12〜13日に開く。タイトルは「天下の台所」。大阪の伝統的な名称を冠にして、お客さんを迎え入れる。大阪名物の食べ物は、たこ焼き、お好み焼きだけではないことを知ってほしい。

 魚は健康に良いと言われている。魚油の主成分であるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、血液をドロドロにする中性脂肪を減らす。脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓(血管内の血小板や血液の塊)ができるのを防ぐ効果があるため、魚を食べることは健康で長生きすることにつながる。海に囲まれた日本の魚食文化をもっと広げたい。

 その意味で、2015年に亡くなった大阪商工会議所会頭の佐藤茂雄さん(京阪電気鉄道最高顧問)から学んだことは多い。大阪市中央卸売市場(福島区)を視察され、「千客万来都市OSAKAプラン」の振興策を進めておられた。私も大阪商工会議所に入会し、その姿を見てきた。急増するインバウンド(訪日外国人客)の需要を取り込もうとする佐藤さんの姿勢は印象的だった。

■近畿大と親交

 日本のマグロ解体ショーを、世界へ広げたのは私だと自負している。10年にシンガポールの日本人会館で初めて実演し、11年には中国の北京国際飯店で披露した。その後も、ノルウェー、スペイン、ベトナムで試みている。国内でも、大阪天満宮(大阪市北区)、住吉大社(同市住吉区)、橿原神宮(奈良県橿原市)、伏見稲荷大社(京都市伏見区)でマグロの解体と奉納を続けている。

 もうひとつのトピックスは、1994年の関西国際空港開港時に、日航機の初荷が大起水産のマグロだったことだ。インド洋で漁獲されたキハダマグロを直送したもので、「空飛ぶマグロ」のマークは、関空の3階レストランゾーンに開港後6年間掲示された。テーマに掲げた「食卓豊漁」は、魚がいっぱい食卓に並んでほしいという願いを込めたものだ。

 マグロと言えば、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大が有名だ。その近大マグロの「親魚」を大起水産は購入している。

 完全養殖に取り組まれた熊井英水名誉教授ともお付き合いがある。マグロを通じて「夢は必ず実現できる」の精神に、私は共感した。海洋資源の枯渇に危機を抱き、特にクロマグロの安定供給を目指し、40年にわたる研究で完全養殖を成功したことに感銘を受けた。これが始まりだった。

 大起水産グループで仕入れを担う大起産業の酒井泉専務(63)は、近畿大の卒業生だ。マグロは天然の資源量が減り、国際的な規制の動きが強まっているため、大起水産グループは長崎県や高知県など全国6〜7カ所で生産された養殖マグロを扱っている。

■憧れの魚

 私たちはかつて、マグロだけでなく、カニも主力に扱っていた。マグロも、カニも、サラリーマンならばボーナス時に食べたくなる「憧れの魚」だ。マグロ解体ショーをすれば、人は集まる。カニ汁を振る舞っても、人は集まる。私も、お客さんが集まるビジネスをすべきだと肝に銘じている。

 私は戦時中の44年に生まれた。父親の仕事の関係で、2歳になるまで満州の奉天市(現在の中国遼寧省瀋陽市)で暮らした。その後、父の実家がある愛媛県で育ち、中学校を卒業して大阪に出て来た。夜間の高校に通うため、魚屋で働いた。

 魚介類を塩漬けにして干した塩干(えんかん)を当時担当していたため、鮮魚には触らなかった。今も、鮮魚に触っていない。鮮魚を扱う会社の経営者にもかかわらずだが、これには訳がある。私が職人のような仕事をして、鮮魚のことだけに集中してしまえば、お客の気持ちになれない。私は、お客が喜ぶことを常に考えなければいけないと思っている。

■食の安心・安全

 新型コロナウイルス感染拡大の第3波が止まらず、飲食業界に打撃を与えているが、堺市では96年に学校給食で発生した腸管出血性大腸菌「O(オー)157」の集団食中毒に直面した歴史がある。だからこそ、思いは巡る。

 コロナ禍で改めて思うことは、食の安心・安全だ。実はいま、魚がよく売れている。巣ごもり生活のため、自宅で魚料理する家庭が増えているようだ。コロナ禍は結果的に、新鮮で、健康にいい魚の素晴らしさに気づかせてくれたのかもしれない。そうだとすれば、私たちの仕事は今が頑張りどころだ。

 さえき・やすのぶ 1944年、愛媛県出身。堺商業高(定時制)卒。75年に塩干類卸売りの大起水産を設立。78年にマグロ加工専門問屋の大起フード(現・大起産業)。趣味は「仕事」。好きな歌は、鳥羽一郎さんの「兄弟船」。

 【大起水産】 本社は堺市北区。1975年設立。店舗数は回転寿司(ずし)31、水産小売り34、その他飲食9。2018年に商業施設「まぐろパーク」を本社に併設した。売上高は139億2300万円で、グループ全体では約235億円。社名の「大起」は中国語読みすると「ターチー」。大阪・道頓堀の回転寿司店は中国人客にも人気を集めている。


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