Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

映画「ただ傍にいるだけで」製作委員会代表 山崎恵子さん

2021年1月7日

テーマは「つながり」 日韓交流を後押し

撮影現場の上田時高監督(中央)=山崎恵子さん提供

 日韓合作映画『ただ傍(そば)にいるだけで』が2月、大阪で上映される。大阪の下町と韓国の済州島を舞台にした恋愛物語。製作委員会代表の山崎恵子さん(67)=大阪市港区=がこだわったテーマは「つながり」だ。歴史問題を背景に、日韓両政府の関係悪化が長期化する中、民間交流を後押しする一本である。

■イントネーションに共通点

 日本と韓国は近い国なのに、ぎくしゃくしている。慰安婦問題や元徴用工訴訟問題の難しい現実があっても、文化レベルでは共に歩んでいけるはずだ。その証拠に、日本には韓流ファンが多い。最近の韓国映画はリアリティー、バイオレンス作品が主流となっている。象徴が『パラサイト 半地下の家族』だ。逆に、韓国ドラマは『王になった男』のように美しい愛の物語が目立つ。その中で、私たちの映画『ただ傍にいるだけで』は、日本人カップルと韓国人カップルの2組の恋愛模様を描いた。

 作品の詳細は控えるが、大阪の下町と済州島の田舎を舞台にすることで、人情味あふれる映画にしたかった。大阪の商店街が登場し、日本人キャストは関西弁で話す。実は、関西弁と韓国語のイントネーションは共通している。いずれも、言葉の末尾が下がる。

 例えば、韓国語の「カムサハムニダ」も、関西弁の「ありがとう」もイントネーションは末尾に向かって下がっていく。映画ではそういうところも楽しんで見てほしい。

■愛することを問い掛ける

 大阪には在日韓国・朝鮮人が多く暮らし、大阪市生野区にはコリアタウンがある。鶴橋の喫茶店で、映画の宣伝ポスターを配って回っていると、済州島出身の方々から「済州島の海が見られるんですね」と声を掛けてもらった。「私は無名のプロデューサー。映画には名も無い役者が登場する」と応えると、「そんなこと関係ない」「日韓の合作がうれしい」と言ってくれた。

 この作品は2019年に撮影し、まずは済州島で上映する予定だったが、日韓関係がぎくしゃくする中、現地での上映の話は流れてしまった。しかし、20年10月に東京・池袋で上映したところ、業界関係者から「今こそこういう映画を見るべきだ」と評価を頂いた。この作品を通し、人と人のつながりの大切さを伝えたい。

 新型コロナウイルスの流行によって、年末年始に帰省できなかった人は多い。親にも、妻にも、子どもにも会えず、当たり前だったことが当たり前ではなくなった。こういう状況だからこそ、人を愛することはどういうことかを問い掛けたい。

■シアターカフェ「Nyan」開設

 私は同市港区で生まれた。四天王寺女子大(現・四天王寺大)教育学部を卒業後、保育士時代に障害児を受け持った。幼稚園教諭も務め、29歳まで幼児教育に携わっていたが、父親が他界し、家業の不動産管理会社を受け継ぐことになった。

 当時はまだ女性がさげすまされていた。「女のくせに」「ねーちゃん」とか言われていた。悔しくて、フェミニズム(女性解放思想)の自己発見講座を受け、女性学第一人者の田嶋陽子さんや、心理学者の小倉千加子さんに学んだ。特に、『松田聖子論』や『風を野に追うなかれ』の著書がある小倉さんには影響を受けた。

 話が少々ずれたけれど、私は幼児教育や自己発見講座を通して演劇に触れるようなった。そして、同市西区で06年にシアターカフェ「Nyan(ニャン)」を開設する。芝居、音楽、映像、絵画などの若手アーティストによる自主イベントの企画を支援していたが、彼ら、彼女らが有名になって東京に出て行くことにむなしさを覚えるようになった。私自身、東京の標準語で作られた映画の多さに寂しさを感じていた。そこで、映画製作会社を19年10月に同市港区で設立し、第1作品として『ただ傍にいるだけで』を完成させた。

■昭和の匂い

 タイトルにある“ただ”という言葉が重要だ。「私たちはカップルよ!」と強調するのではなく、気づいたら寄り添っているようなほんわかしたイメージを“ただ”に込めた。私は映画のエグゼクティブプロデューサーをはじめ、原作と脚本を務めているが、監督の上田時高さん(48)が「昭和の匂いが必要だ」と指摘してくれたおかげで、奥深い作品になった。上田さんも私と同じ同市港区の出身で、昭和の下町で育った。

 大阪はいま、他都市と同じように人間関係が希薄になっている。だから、孤立した家庭で幼児虐待が起きたりする。昔は地域全体で子どもを育てていた。『ただ傍にいるだけで』には、高層ビルは一切出てこない。まさに「昭和の匂い」がする作品に仕上がっている。

 やまさき・けいこ 1953年、大阪市港区出身。四天王寺女子大(現・四天王寺大)教育学部卒。保育士だった母親と同じく、保育士、幼稚園教諭に。父親が他界し、家業の不動産管理会社を継承。2006年にシアターカフェ「Nyan(ニャン)」を大阪市西区で開設。19年に映画製作会社を設立。第1作『ただ傍にいるだけで』では、エグゼクティブプロデューサーを担い、原作、脚本、役者としても参画。芸名は「八方ねこ」。父が亡くなった時、猫が自宅にやって来たことに由来する。

 【ただ傍にいるだけで】 日韓合作映画。本編159分。2月12〜25日にテアトル梅田(大阪市北区茶屋町の梅田ロフトB1F)で上映決定。4月上旬にはシアターカフェNyan(同市西区北堀江)で上映予定。


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