Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

寶生教大阪本部長 山本 晃道さん

2021年3月22日

“鬼滅”現象 講話で 古き良き日本への渇望

大阪市西区の恒例イベント「にし恋マルシェ」のステージ=2014年11月

 昨年、国内映画の興行記録を書き換えたアニメ『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』に対する論評は少なくない。新型コロナウイルス禍の中で大ヒットした本質に迫ったり、キャラクターが語る言葉の意味を掘り下げたり…。宗教法人「寶生教(ほうせいきょう)」大阪本部長の山本晃道さん(49)も、『鬼滅の刃』現象を分析する一人。「日本人としての昔ながらの当たり前を渇望している」と講話で説いた。

■家族の絆

 『鬼滅の刃』は大正時代を舞台に、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、鬼と化した妹の禰豆子(ねずこ)を人間に戻すため、鬼との壮絶な闘いに挑む物語。主人公の少年は大きな優しさによって仲間、敵の鬼も包み込む。さらに、家族の絆や長男としての務めを口にする。そのような精神が作品全体を貫いている。

 つまり、戦後の日本が家庭や教育現場で失ってしまった「日本人らしさ」が一貫している。これが、社会現象を巻き起こすまでに至った背景にあるのではないか。明治、大正、昭和初期までの古き良き日本の当たり前を、現代の多くの人々が渇望した表れだと思う。

■長屋文化

 「貴族の義務」という道徳観が欧州に根付いている。「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」ということわざがあるように、身分の高い者や裕福な人は、そうでない人たちへの奉仕活動、慈善事業を通じ、世の中に還元する。現在もこの風習は受け継がれている。

 この互助作用は、昔の日本にも見られた。江戸時代の長屋文化はまさにそうだ。町民の多くは集合住宅の長屋で暮らしていた。そこでは管理人の「大家」が住人の生活を保護し、助け合うことが当たり前だった。「向こう三軒両隣」の生活だったのだ。互助の精神は明治、大正、昭和初期まで続き、あらゆる所に人情が息づいていたが、こうした日本人の美しさが敗戦を機に消えていったように思う。

 例えば、戦後の住宅不足を緩和する政策として建設が進んだ公団住宅は、一方で、核家族化を招いた。本来なら、人気アニメ『サザエさん』に登場するサザエさん一家のように3世代が一つ屋根の下で暮らし、家族の序列を実体験で覚えることができたが、核家族化によって、昔ながらの日本人らしさを失ってしまった。

■全集中で備え

 こうしたことが背景となって、「このままでは危うい」と感じていた人たちの心に、『鬼滅の刃』は響いたのではないか。「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように」などの言葉に、若い人たちは共感していったように映る。

 また、主人公がよく口にする言葉に「全集中の呼吸」がある。今年は衆議院総選挙が予定されているだけに、政治の混乱をはじめ、昨今の新型コロナ禍による経済活動の低調、自然災害などあらゆる事に、お互いが「全集中の呼吸」で備えたいと思う。

■日本永代蔵

 私は、信徒の皆さまへの講話に『鬼滅の刃』を取り上げている。また、井原西鶴が書いた『日本永代蔵』を講話の題材にすることもある。上方の商売道を説いた『日本永代蔵』は、全30話からなるノンフィクション小説であり、江戸時代のベストセラーだ。

 西鶴は同書で「商売には才覚と始末が大事」と語っている。「才覚」は商売上の工夫を意味し、「始末」は無駄を省くことだが、実は、この二つの下に大事なことがあるそうだ。それが「正直の心」。全ての基本は正直に商売すること。金もうけだけに走るのではなく、世のため、人のために資する精神の上に、才覚と始末を持って進めることが大切というわけだ。

■五つの幸せ

 もうひとつ、ある言葉を紹介している。「梅花五福(ばいかごふく)を開く」−。日本の冬の代表的な花の一つである梅は、どの花よりも先駆けて咲く。そして、梅には5枚の花弁がある。つまり、「梅花五福を開く」は、冬の厳しい寒さに耐え忍べば、梅の花のごとく五つの幸せがやって来るという言葉だ。五つの幸せとは「長寿」「豊かな財力」「無病息災」「天寿を全うする」「徳を修める」。中国古代の歴史書「書経」から引用されたと伝わっている。

 五つの幸せのうち、四つ目までは自分の力だけでなし得ず、五つ目の「徳を修める」は人間の努力の範囲だという解説がある。先ほどの『日本永代蔵』の話にもあるように、さまざまなことに成功するのは本人の努力が一番だが、決してそれだけではない。人と人の縁、巡り合わせといったところで、世の中の物事は成り立っている。

 そういったものをうまく運んで、願いや希望を聞き届けるのも、大神様の守護、先祖の縁の結びである。

 やまもと・てるみち 1971年、大阪市西区出身。皇學館大文学部神道科卒。西宮神社の権禰宜(ねぎ)を経て97年に寶生教大阪本部の教務部長に就任。2016年に父親の佳道氏から大阪本部長を引き継ぎ、現在に至る。趣味はクラリネット、ゴルフ。1980年代後半に一世風靡(ふうび)した米国ロックバンド「ガンズアンドローゼズ」のファン。学生時代はバスケットボール部に所属し、ポジションはガード、シューター。

 〈寶生教の地域活動〉
 宗教法人「寶生教」大阪本部は大阪市西区北堀江に位置。4月11日には恒例の「ほりえ神輿(みこし)」を通して地域の発展、安全を祈願する。西区の一大イベント「にし恋マルシェ」にも参画。高層マンションの建設ラッシュを背景に人口が急増する中、「あいさつし合える町づくり」(山本晃道氏)に余念がない。寶生教敷地内の和室(78畳)を子育て応援施設「まほろば」として開放している。


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