Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

映画「ただ傍にいるだけで」製作委員会監督 上田 時高さん

2021年4月26日

5月に“再”上映へ 共感得られた理由は…

日韓のストーリーが重なり合う「ただ傍にいるだけで」の1シーン=製作委員会提供

 テアトル梅田(大阪市北区)で、今年2月に公開された映画『ただ傍(そば)にいるだけで』の5月再上映が決まった。製作委員会代表の山崎恵子さんが「人と人の“つながり”の大切さを伝えたい」と公開前の本紙取材(1月7日掲載)で語った通り、作品は共感の輪を広げた。「ご好評につき再上映」というお墨付を得た理由は何か? 「何が受けたかですか。それは、映画を見てください」−。山崎さんの片腕としてメガホンを取った監督の上田時高さん(48)の表情に自信が浮かんだ。

■予想外

 菅田将暉さん、有村架純さん共演のヒット作『花束みたいな恋をした』、カンヌ国際映画祭の批評家週間クロージング作品である中国映画『春江水暖(しゅんこうすいだん)』と並んで、『ただ傍にいるだけで』は2月12〜25日にテアトル梅田で上映された。『花束みたいな恋をした』『春江水暖』の二つの名作を前に、私たちは映画配給会社として一般公開“1期生”だったが、興行収入は伸びた。テアトル梅田は再上映決定の告知に際して「ご好評につき」と表現してくれた。まさに、予想外の好評だった。

 『ただ傍に−』で、公開しているあらすじはこうだ。

 “映画監督への夢を抱き、業界での仕事に励む守。敏腕プロデューサー章子との出会いから自主映画を撮り始めるのだが、思いもよらぬ事がきっかけで撮影中止に追い込まれる。そんな中、敬愛する祖母の訃報の知らせが…。夢を捨て、下町の時計店での日常を送る守のもとに、ある知らせが。そして、自身も難病に侵されていることを知る。途方に暮れ、かつての留学の地・韓国へ。そこで映画俳優を目指すジェボムと出会うことから、新たな物語が動きだす”

■三重奏

 『ただ傍に−』は、守と章子の日本側のストーリー、ジェボムたちの韓国側のストーリーに加え、守たちが映画を撮るストーリーの三重奏になっている。原作・脚本を担った山崎恵子さん(製作委員会代表)の思いを大切にしたかった。山崎さんが描いた日韓の二つのストーリーを一つの作品にまとめ、日韓交流によって人情味あふれる映画に仕上げることに注力した。

 韓国の撮影地は済州島だが、観光地の側面ではなく、人間の温かみを感じられる自然の風景にこだわった。漁村や石垣の街並みを見つけ、そこで撮影した。

 日本の撮影地も下町を意識し、大阪市港区を選んだ。山崎さんも、私も港区生まれ。ウオーターフロント開発の先駆けとなった港区だが、地下鉄中央線朝潮橋駅近くの八幡屋商店街など庶民的な雰囲気は今も息づいている。『ただ傍に−』では、下町の時計店で日常を送る守に向かって「守ちゃ〜ん」と声を掛けるオバチャンも登場する。そのノリも大阪の下町。とにかく、人間の交流を描いた映画だ。

■心からの涙

 私は地元愛が強い。かつて米国で暮らしていたため、多民族社会の中で自分のオリジナリティーについて考えることがあったのかもしれない。

 高校を卒業して渡米。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の舞台・映画・テレビ学部舞台芸術学科で学び、在米中は役者、ダンサー、照明デザイン、演出も経験した。飲食店のプロデュースを手掛けたこともある。例えば、お茶をいれて、お客さまのテーブルに運ぶ動作も「アート」であり、ウエーターはいわば「役者」だ。お店はある種、お客さまにその時を楽しんでいただく空間を演出しているというのが私の考えだ。

 そして、演技は「演じてはダメ」というのが私のこだわりだ。在米中に主宰した「パフォーミングアートカンパニー」で演出、演技指導した際、リアリズムと表現方法に力点を置いていた。だからこそ、『ただ傍に−』は、章子が守のことを思って泣くシーンなどで「心からの涙」を見せることにこだわった。

■最後の夢

 映画や舞台はもともと、その日の語らい、祭り、宗教行事などから始まったと考えている。だから、民俗の文化、習慣、音楽、遺跡、芸能を実体験するため、世界中を放浪したこともある。

 帰国後、私は家業の不動産管理を通し、山崎さんと仕事を共にするようになった。若手アーティストを支援するため、大阪市西区に開設されたシアターカフェ「Nyan(ニャン)」でプロデュースとアートディレクターを務め、『ただ傍に−』の監督を引き受けた。

 山崎さんは、東京ではなく関西で映画を企画製作することにこだわった。「私の最後の夢に乗ってほしい」と訴えた山崎さんの言葉に感銘を受けた。キャスト、スタッフの思いがこもった『ただ傍に−』をぜひ見てほしい。

(聞き手は深田巧)
 うえだ・ときたか 1972年、大阪市港区出身。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)舞台・映画・テレビ学部舞台芸術学科卒。在米中に独自の舞台芸術を追求するパフォーミングアートカンパニー「夢進界」結成。帰国後、山崎恵子さんが2006年に開設したシアターカフェ「Nyan(ニャン)」(大阪市西区)でプロデュースとアートディレクターを担当。宅地建物取引士。
 【ただ傍にいるだけで】
 日韓合作映画。本編159分。キャスト=ソン・ミンギョン、大野洋史、野中朋子、ハン・ヨンホ。大阪市北区茶屋町の梅田ロフトB1F「テアトル梅田」で5月21日〜6月3日に再上映予定。


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