Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

元三和銀行取締役  田中 嘉彦さん

2021年5月13日

未来開く就活漫画 「政策リサーチ」活用へ監修

 新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに日本のデジタル化が進む中、元三和銀行取締役の田中嘉彦さん(76)が、漫画『デジタルインターンシップ』を世に出した。政治や経済の動向を発信するウェブサイト「政策リサーチ」の活用を呼び掛ける就活本だ。学生が目指す業界、企業の情報をはじめ、消費者の評判も把握できるため、漫画の副題として『自分の道が見えてくる』と付けた。それにしても、なぜ元バンカーが就活のアドバイスを、しかも漫画で?

■視座を高く

 三和銀行(現・三菱UFJ銀行)在勤約30年のうち、半分の15年は海外勤務だった。ドイツに10年、シンガポールに5年。この間に欧州、アジアの30カ国で金融取引に携わった。不良債権に直面することなく、いわゆる無傷で銀行を卒業できたわけだが、特に心掛けたことが視座の高さだ。

 企業の財務指標だけで判断せず、その業界やカントリーリスクも詳しく調べた。フィナンシャル・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルの経済紙を読み込み、自分の視座を養った思い出がある。

 海外では現地の若者を支店のスタッフとして採用していたが、今思えば、彼ら、彼女らと比べると、日本の新卒者は子どもだ。それだけ、日本の大学は学生を子どものまま社会に送り出しているように思う。

■クリック一つ

 三和銀行の取締役外国業務部長を最後に退職し、クレジット会社JCBの取締役を経て、他の企業役員を務めていた70歳の頃、知り合いの飲料メーカー幹部から政策リサーチを紹介してもらった。

 実際に活用して、驚いた。クリック一つで、日本や世界の情報を見ることができ、ビジュアル化されているため分かりやすく、見やすい。政府の成長戦略や長期ビジョンについても、論点を絞った解析によって情報や課題が整理できる。各省庁のホームページが一元化され、広い視野で見ることができた。

 私は、縁あって、この政策リサーチのシステム管理団体「日本みらい研」(東京都千代田区平河町)の特別顧問に就いた。日本みらい研は、党派を超えた国会議員や企業経営者、学術界・官公庁の人たちが日本、世界の未来を議論し、「カタチ」にするため、2012年に一般社団法人化した。代表の高松重雄さんは、衆議院で政策担当議員秘書として政策や法律の立案に携わった経緯がある。その高松さんと一緒に、私は政策リサーチの講演を続けている。

 母校の大阪大でも今年4月にオンライン講演し、「デジタル図書館」のように世の中のことが広く網羅されていると解説した。政策リサーチを活用すれば、時流を読むことができ、トレンド解析も見られる。つまり、未来を選択するために必要な社会の軸を確認できるのだ。

 先ほども述べたが、私は三和銀行の海外勤務時代に視座を高く保つことを心掛けた。その経験を踏まえると、政策リサーチの活用を通してローカルベンチマーク(企業経営の健康診断)の実施が、就職活動の最高の手段だと考えている。

■志が一致

 大学生の就職に関して言えば、就職して3年以内に離職する割合が約3割を占めている。いわば、「こんなはずじゃなかった」離職だが、採用した企業としても、人件費を投じてすぐに辞められたら丸損だ。学生が世の中を広く見て決断するような、つまり「なるほど」就職をしてほしい。そう考えて、政策リサーチを就活に利用してもらうことにした。それが漫画『デジタルインターンシップ』だ。

 漫画ならば学生が親しみを持って読むと知人から聞き、紹介されたのが漫画制作会社「コミックエージェント」(大阪市西区南堀江)の伊藤貴志代表だ。世の中を良くしたいという志が一致し、同社から今年3月1日に刊行した。シナリオ制作は伊藤氏の妻の曦琳(しーりん)さん。スタッフの木村綾香さん、野村弥央さんが漫画を担当し、私が監修した。主人公である私立大3年の男子学生がOB、OG訪問を通して政策リサーチと出合い、就活に生かしていくストーリーだ。

■地方創生

 雇用環境は変化している。従来は、年功序列や終身雇用に見られるメンバーシップ型だった。組織の団結力を重視したもので、大量生産大量消費の時代に合っていた。しかし、現在は、組織に必要な職務をこなせる能力のある人材を採用するジョブ型への移行が進んでいる。新型コロナで、テレワークが一気に広がり、ジョブ型の土壌は出来上がりつつある。

 働き方が多様化する中、『デジタルインターンシップ』では、何となくのイメージで就活するのではなく、世の中を知り、自分の人生に責任を持って就活する生き方に焦点を当てた。今後、各大学に配っていく予定だ。

 充実したインターンシップは、地方創生にもつながる。東京一極集中の解消が叫ばれて久しいが、若者の力で大阪を再興できればと思う。若者が「大人」の顔をして働く姿が見たい。これが私のライフワークだ。来年、喜寿を迎えるが、いま、私の心は燃えている。

(聞き手は、深田巧)
 たなか・よしひこ 1945年、柏原市生まれ。大阪大法学部卒、大阪大大学院修士課程修了。67年に三和銀行入行。取締役シンガポール支店長、同外国業務部長を歴任。その後、JCBで専務取締役大阪支社長、同営業本部長、ロングライフホールディングスで社外取締役を務めるなど多方面で活躍。日本みらい研の元特別顧問。現在は大倉の監査役(非常勤)。好きな歌は「北の漁場」(北島三郎)、「六甲おろし」(阪神タイガースの歌)。

 【デジタルインターンシップ】
 田中嘉彦さんが監修した就活漫画。コミックエージェント(大阪市西区南堀江、伊藤貴志代表)が編集制作。今年3月1日に刊行した。主人公である私立大3年の男子学生がOB、OG訪問を通して「政策リサーチ」と出合い、就職活動に生かしていくストーリー。副題は「自分の道が見えてくる」。


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