Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

独立行政法人造幣局理事長 山名 規雄さん

2021年6月3日

創業150年の節目に就任 身の引き締まる思い

大阪市北区天満の大川(旧淀川)沿いに位置する造幣局の建物=造幣局提供

 独立行政法人造幣局の新たな理事長に、財務省から山名規雄さん(57)が就任した。折しも、今年は造幣局が大阪の地で創業して150年の節目。地域の人々と触れ合う最大のイベントが「桜の通り抜け」だが、新型コロナウイルス感染予防のため、一般公開は2年連続で見送られた。「来年は前向きで、明るい形の桜の通り抜けを再開したい」と山名さん。貨幣・勲章の製造や地域への貢献活動に臨む姿勢を聞いた。

■明治維新の群像

 造幣局は、間口が広く、奥行きが深い。いろいろな切り口で議論できる。

 例えば、大阪に本局を設けた唯一の国の機関として1871(明治4)年に創業した造幣局には、歴史と伝統がある。そこには、明治維新の群像がきら星のごとく出てくる。その象徴が「長州ファイブ」だ。このうち、伊藤博文、遠藤謹助、井上勝、井上馨の4氏が「造幣局長」経験者だ。

 放映中の大河ドラマでおなじみの渋沢栄一氏も造幣局と関係がある。渋沢氏と言えば、国立印刷局が管轄する新1万円札の顔になる人だが、実は、大蔵省(現・財務省)の役人時代に造幣局へ出張していた。このことは渋沢栄一自伝『雨夜譚(あまよがたり)』(岩波文庫)にも出てくる。

 さらに、ものづくりの観点からも議論が可能だ。貨幣の金型加工などで、造幣局からはこれまでに大阪府優秀技能者表彰(なにわの名工)や現代の名工を何名も輩出している。まさに匠(たくみ)の技だ。

■新500円貨幣発行

 キャッシュレス化の点で言えば、確かに1円、5円といった少額貨幣の流通量は減っている。しかし、500円貨幣は増えているようだ。理由は定かではないが、「ワンコイン」弁当を現金で買う人が増えたことなども影響しているかもしれない。

 500円貨幣については、2021年度に新しくなる。素材に「バイカラー・クラッド(二色三層構造)」を取り入れ、貨幣の縁に「異形斜めギザ」を施すなどして、偽造防止を強化する。日本らしい精緻で、きめ細かい対応を取っていく。財務省は11月をめどに市中に出す予定だ。

 21年度は近代通貨制度、郵便制度の各150周年記念貨幣も発行する。新500円貨幣の発行とともに次の150年への第一歩になる。

 地域貢献活動を巡っては、桜の通り抜けをはじめ、大相撲春場所の優勝力士への造幣局理事長杯贈呈、水都祭・天神祭奉納花火(実行委員会、大阪日日新聞主催)への協力に取り組んでいる。また、明治時代の西洋風建築を復元改装した造幣博物館が構内にはある。

 造幣局にとって貨幣・勲章製造、地域貢献、そして観光スポットは三位一体だ。

■国民に奉仕

 私はもともと、国民に奉仕したい、貢献したいと考え、学生の頃、「霞が関」で働くことを考えた。1987年4月に大蔵省へ入省し、34年になる。

 この間、酒税行政に3回関わった。国税庁の酒税課長補佐だった頃、95年1月17日発生の阪神淡路大震災で被災した「灘の酒蔵」の支援施策に取り組んだ。2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の頃は、酒税課長だった。日本酒の輸出に際して、相手国が求める証明書発行の仕組みを整備した。その後、国税庁審議官としても日本ワインのブランド化や日本酒の輸出促進に取り組んだ。

 銀行局や金融企画局にも在籍した。当時は証券会社や銀行の破綻が相次いだ。金融危機を防がなければいけないという思いで仕事していた。「夜の暗いうちに帰りたい」というような時代だった。

 いま、国家公務員の志望者減少が問題になっているが、志の高い若者にぜひ来てほしい。霞が関の仕事、財務省の仕事は誰かが担わなければいけない。国民のためになる形でなければ、日本は世界に伍(ご)していけない。

■貨幣の信用を守る

 財務省は昨年、組織理念を作った。「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」と財務省の使命を掲げている。これは航路の先に動かずにある北極星のようなものだ。

 財務省の一員である造幣局にとって、貨幣の信用を守ることが大切だ。逆に言えば、信用が形になったものが貨幣だ。この理念を大事にし、先人が築いたものを維持発展させていきたい。

■「之を楽しむ者に如(し)かず」

 150年の節目に就任し、大変光栄に思うと同時に身の引き締まる思いだが、好きな言葉である「之を楽しむ者に如かず」をモットーに、心にゆとりを持ち楽しく仕事をやっていきたい。

 やまな・のりお 1963年、東京都生まれ。東京大法学部卒。87年に大蔵省(現・財務省)入り。92年に大阪国税局田辺税務署長。英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員、東京国税局査察部長、国税庁課税部酒税課長、主計局主計官、大臣官房審議官などを歴任。2021年4月に独立行政法人造幣局理事長就任。趣味は街歩き、食べ歩き。毎朝、出勤前に天満宮にお参りするのが日課。新型コロナウイルスが収束すれば「吸い込まれそうな飲み屋でディープに染まってみたい」。


 【造幣局が大阪に位置する訳】
 1871年に創業した理由として、王政復古の大事業に貢献した大阪財界に対する配慮▽当時の東京の治安状況▽大阪遷都論の存在▽大阪が天下の台所で経済の中心−という事情が語り継がれている。
 造幣局は大阪に本局を設けた唯一の国の機関。所在地は大阪市北区天満1−1−79。


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