Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

龍谷大副学長 安藤 徹さん

2021年7月1日

生きやすい社会づくりへ 心理学部を23年春開設

龍谷大の深草キャンパス=京都市伏見区(提供)

 龍谷大(京都市)は、2023年4月に心理学部を開設すると発表した。折しも、テニス選手の大坂なおみさんが「うつ」を告白し、女優の深田恭子さんが「適応障害」を明かすなど、有名人の心の病が衆目を集めたばかり。心理学部開設の背景や意義について、担当責任者である副学長の安藤徹さん(53)=文学部教授=に聞いた。

 

■「対人支援」のスキル習得

 現代社会が複雑化し、激動する中、メンタル面の課題が指摘されている。いじめやハラスメントがこれまで以上に浮上してきた。

 学校現場のスクールカウンセラーや企業のメンタルケアは増えている。東日本大震災に象徴される大規模災害では、特にメンタルケアが重要になる。最近は、新型コロナウイルス禍で孤立するなど、心理的に安心できない人は多い。こうした課題への取り組みを、大学はしていかなければいけない。

 もともと、文学部の中に臨床心理学科がある。12年度の臨床心理学科開設以降、メンタルケアの技能を身に付けてきた。この学科を母体とする心理学部は、本学10番目の学部になる。

 今後、公認心理師、臨床心理士など心理専門職の資格取得を目指す人への教育を充実させていく。さらに、「対人支援」のコミュニケーションスキルを身に付け、幅広い分野で活躍する人間を育成する。対人支援は、龍谷大の建学の精神「浄土真宗の精神」にも通じる。

 

■人の心を見つめる

 対人支援について言えば、どこの企業に勤めても、面倒な問題が生じた時に対人関係をほぐしながら、職場を回していけるようなものを見つけることができれば、本人のためになる。それだけでなく、周囲の人たちも生きやすくなる。

 私の専門分野は日本の古典文学であり、特に「源氏物語」の研究だ。主人公の光源氏を軸に、絡み合った人間関係のどろどろしたものが描かれ、千年に渡って読み継がれている。そこにある現実感とは何なのか。これを明らかにしたい。人のつながりの中で人の心を見つめることは大事だ。

 

■仲間で学び合う

 (大坂なおみさんや深田恭子さんのニュースについて)コロナの時もそうだった。最初は、コロナの怖さを実感できなかったが、みんなが知っている志村けんさんが感染して亡くなり、岡江久美子さんも死去したインパクトはすごかった。それと同じように、メンタルな問題をあえて公表し、困難と向き合い、乗り越えようとすることを見せてくれたのは大きな意味がある。

 つまり、自分もそうかもしれないと気づく人がいる。そうやって、人に頼っていいんだと思うことが大切だ。私は「悩むことは成長につながる」と学生によく語っている。しかし、抱え込むと、悩みは深まるので、人の助けを借りるべきだと指導している。助けを求められた人も、相談に応じる中で成長していく。

 いわば、仲間同士で学び合う「ピア・ラーニング」だ。教員と学生は垂直的で、上下の関係にある。一方、学生同士の横のつながりで学び合うことは、ある側面においては学習効果が高い。

 

■悩む自分に気づかず

 1968年生まれの私の世代は、バブル景気に就職した「バブル世代」と呼ばれている。バブルとは何だったか。社会全体が浮かれて、華やかだったため、悩んでいる自分に気づかないまま生きてきた。そして、気がついた時にはむなしさを感じていた。走り続けなければいけない恐怖観念が強く、動き続けていることに価値を見いだそうとしていた。ある意味、資本主義の本質だったのかもしれない。

 私は現在、新幹線通勤をしている。名古屋市内の自宅から京都市内の大学へ通っている。片道1時間半だ。堺市と京都市の移動が2時間だから、距離に対する移動時間ははるかに速いことになる。しかし、知らない間に疲れがたまっているように思う。

 人間は許容範囲のスピードを超えれば、ストレスになる。成長一辺倒ではなく、立ち止まって考えることが大切だ。走りながら考えるという話をよく耳にするが、「せめて歩きながらにすべきだ」と訴えたい。

 心理学部設置委員会の委員長を務める私は今年4月、副学長にも就任した。会議や打ち合わせが増えた。疲れもたまるので、晩酌して、ストレスを解消している。

 

■400周年に向けて

 1639年に京都・西本願寺に設けられた学寮に始まる龍谷大は、今年で382年目。2039年の創立400周年に向けて、長期計画の「基本構想400」が昨年から動いている。将来のあるべき姿を設定し、計画を立てる。「自省利他」を行動哲学として、社会の課題解決につなげる。その表れの一つが心理学部の開設だ。

 あんどう・とおる 1968年、岐阜県大垣市出身。名古屋大文学部卒、名古屋大大学院文学研究科修了。日本学術振興会の特別研究員を経て龍谷大の講師に。2010年度から文学部教授、21年度に副学長就任。専門分野は日本古典文学で、特に「源氏物語」などの平安朝文学に関心が高い。龍谷大心理学部設置委員会の委員長。最近は、マツコ・デラックス出演のテレビ番組をよく見る。

【龍谷大「心理学部」開設計画】
 現在の文学部臨床心理学科を改組し、2023年4月に、本学10番目の学部として開設する。入学定員255人、収容定員1040人。1・2年次は深草キャンパス(京都市伏見区)、3・4年次は大宮キャンパス(同市下京区)。心理学部開設は、龍谷大の長期計画「基本構想400」の一環として位置づけられている。


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